ビレーの朝の薄明かりが、まだ冷えた石畳に影を落とす。ラーンは鼻腔をヒクヒクさせながら、イシェの用意する粗末な朝食を狼汚しく貪った。
「今日はあの崩れた塔だな。テルヘルが言うには、そこには未開の地下空間があるらしいぞ」
ラーンの目は期待に輝き、イシェは眉間にシワを寄せる。
「またそんな話か。地図には載っていない場所なんて、ただの噂だろう」
「いや、今回は違う!テルヘルはヴォルダンとの戦いで得た情報だと。あの崩れた塔はかつてヴォルダンの要塞の一部だったらしいんだ」
ラーンは興奮気味に語ると、イシェの鼻腔を軽く突いた。イシェはため息をつきながら、食卓に残ったパンを片手に言った。
「わかったわかった。でも危険な場所だと分かっているなら、もっと慎重に進もうぜ」
テルヘルが待つ場所に、二人を乗せた馬車はゆっくりと出発した。ビレーの街並みが遠ざかり、荒れた野原が広がるにつれ、イシェの不安は増していった。ラーンの鼻腔からする粗雑な息遣いだけが、馬車の静けさを破る音だった。
崩れた塔に到着すると、テルヘルはすでに待っていた。彼女は鋭い視線で二人を見据え、地図を広げた。
「ここだ。地下空間への入り口は、塔の奥にある崩れた壁の下にあるはずだ」
ラーンの鼻腔が興奮で震えるのが見て取れる。イシェは彼を制止しようと口を開いたが、その時だった。地響きと共に、塔の奥から埃と石が吹き上がったのだ。
「な、なんだあの音は!?」
ラーンが驚いて叫ぶと、テルヘルは冷静に言った。
「ヴォルダンだ。どうやら我々の動きを察知したようだ」