ラーンが巨大な石扉の前に立ち尽くしていた。イシェの「本当に開くのか?」という疑いの声も届かない。目の前には、ビレー周辺で最も大きな遺跡の一つ、眠れる巨人の墓と恐れられる場所だった。テルヘルが持ち込んだ古い地図によると、この扉の奥に、ヴォルダン軍が奪った遺物に関する手がかりがあるという。
「よし、開けようぜ!」
ラーンは力任せに扉を押し始めた。イシェは諦めたようにため息をつきながら、彼の背後に回りこんで、扉の隙間から覗き込もうとした。すると、扉はわずかに開き始めた。その瞬間、ラーンの背筋がぞっとした。
「何かいる……」
イシェも扉の隙間から見える光景に言葉を失った。漆黒の闇の中、赤い光が脈打っていた。まるで巨大な心臓が鼓動しているかのようだった。
「逃げろ!」
テルヘルは突然叫び、ラーンの腕を引っ張った。しかし、遅かった。扉が開ききった瞬間、そこから黒い影が飛び出して来た。ラーンは本能的に剣を構えた。
「なんだ!?」
イシェは驚愕の声を上げた。黒い影は巨大な狼の姿をしていた。しかし、その目は赤く光り、牙からは黒煙のようなものが立ち上っていた。それはただの狼ではなく、何か邪悪な力によって生み出された怪物だった。
ラーンの剣が狼の牙にぶつかった。衝撃で彼の腕が痺れた。狼は咆哮を上げ、ラーンに向かって飛びかかってきた。イシェは小さな体で必死に動き、狼の攻撃をかわしながら、テルヘルに何かを叫んでいた。
「何だ!?あの狼、強すぎる!」
イシェの声に、ラーンも狼の強さに慄いた。しかし、彼は諦めなかった。
「絶対に倒す!」
ラーンの剣は再び狼を斬りつけた。その瞬間、彼の心の中に熱いものが燃え上がった。それは恐怖ではなく、仲間を守るため、そして未来のために戦うという強い決意だった。
イシェが狼の足に絡みつき、テルヘルが影から矢を放つ。三人はそれぞれの役割を果たし、狼に立ち向かった。その姿はまるで、かつてこの地に栄えた文明を守ろうとする戦士たちのように見えた。
そして、ついに狼は倒れた。三人は息を切らし、互いに顔を見合わせた。彼らの顔には、疲労だけでなく、達成感と希望が溢れていた。
「やった…」
イシェが呟いた。ラーンは剣を片付け、イシェの肩を叩いた。
「よし、次は扉の中だ!」