ビレーの朝はいつも早かった。まだ薄暗い空の下、ラーンはイシェを起こすために彼女の肩を叩いた。「起きろよ、イシェ。今日はテルヘルが待ってるんだぞ」。イシェは眠たい目をこすりながら起き上がり、小さな火にかけられた鍋から湯気を立てたお茶を一杯飲んだ。「今日の遺跡はどんな場所だっけ？」
「テルヘルが言うには、深い洞窟らしい。古代の王家の墓なんだと」ラーンの声は興奮気味だった。イシェは小さくため息をついた。ラーンがそんな話を聞くと、まるで自分の耳が鼓膜まで鳴り響くように興奮するのだ。だが、イシェはいつも冷静さを保ちたかった。「危険な場所かもしれないよ。ちゃんと準備をしないと」
テルヘルは、いつものようにビレーの入り口で待っていた。黒曜石のような瞳に鋭い光を宿し、まるで獲物をじっと見つめるかのような視線で3人を確認した。「準備はいいか？」
ラーンはニヤリと笑った。「いつでも行くぞ！」イシェも深呼吸をして緊張を鎮めた。洞窟の入り口は狭く、湿った冷たい風が吹きつけてきた。中は真っ暗で、わずかな光だけが差し込んでいる。ラーンの持っていたランプの火が揺らめき、影が壁に不気味な形を作り出す。
「静かに動け」テルヘルの声が響いた。彼女の足取りは軽やかで、まるで洞窟の中にいることを忘れてしまうかのように素早く進んでいく。イシェはラーンの後ろを歩きながら、鼓膜を震わせるような音に気を配った。遠くから、かすかな地鳴り、そして何かが這うような音。
「これは...」イシェは言葉を失った。洞窟の奥深くには、巨大な石棺が置かれていた。その周りには、奇妙な紋章が刻まれた石碑がいくつも立ち並んでいる。
「これが古代王家の墓か...」ラーンの声が震えていた。イシェは本能的に危険を感じた。この場所には何か邪悪なものがある気がした。鼓膜をくすぐるような音が増すにつれて、イシェの心臓は激しく脈打ち始めた。「気をつけろ！」テルヘルが叫んだ瞬間、石棺の上から黒い影が飛び出した。