ラーンの重い息づかいが、薄暗い遺跡の静寂にこだました。汗で額の毛が肌に張り付くのを、イシェは嫌な気持ちを押さえながら拭き取った。
「本当にここなのか?」
イシェの声は震えていた。ラーンは、いつも通りの豪快な笑みを浮かべながら頷いた。
「ああ、ここだ!この壁の模様、さっきテルヘルが言ってたやつじゃねえか!」
確かに、壁には複雑に絡み合った紋様があり、テルヘルのメモ帳に記されたものと酷似していた。だが、イシェはどこか不安を感じた。いつもよりラーンの鼓動が速く、胸腔全体を震わせるように感じられるからだ。
「よし!開けろ!」
ラーンが力強く壁を押すと、奥から微かに音がした。イシェは心臓が跳ねるのを抑えきれず、息を呑んだ。壁の一部がゆっくりと沈み込み、薄暗い通路が現れた。
テルヘルは冷静に地図を広げながら言った。「ここは注意が必要だ。遺跡の記録によると、この先には罠が仕掛けられている可能性がある」
だが、ラーンの顔から興奮の色が消えることはなかった。イシェは彼の手が震えていることに気づき、またもや不安が胸を締め付けた。彼の鼓動は、まるで獣のように激しく、その音がイシェの耳に直接響いてくるようだった。
「さあ、行こうぜ!」
ラーンは先頭に立ち、闇の中へと消えていった。イシェはテルヘルと共に彼の後を追う。一歩ずつ進むたびに、彼女の心臓は鼓動を速め、背筋が寒くなるような感覚に襲われた。この遺跡には何かがいる、そう感じたのだ。そして、それは彼ら自身よりもずっと強い存在であるように思えた。