「準備はいいか？」ラーンの低い声が響く。イシェは小さく頷き、テルヘルは鋭い視線で周囲を警戒した。ビレーの遺跡群の中でも特に危険な場所だと噂されるこの場所は、いつも以上に不気味な静けさに包まれていた。
「あの奥だ」テルヘルが指差す方向は、崩れかけた石造りの門が朽ち果てている場所だった。ラーンが先頭を切って進むと、イシェとテルヘルも後を続いた。
足元には石ころが散らばり、不規則に伸びる影が不安な雰囲気を増幅させた。一歩ずつ慎重に進むうちに、空気が重く、息苦しくなった。ラーンの陽気な声がいつもより小さく聞こえる。イシェは自分の心臓の鼓動を意識し始めた。
「何かいる」テルヘルが呟いた。その瞬間、背後から不規則な音が聞こえた。振り返ると、巨大な影が彼らを襲いかかってきた。ラーンは剣を抜いて応戦するが、影は素早く動き回り、攻撃をかわす。イシェは冷静に状況を判断し、テルヘルと共に影の動きを封じ込める作戦を練る。
しかし、影は予想以上の力を持っていた。ラーンの攻撃をものともせず、イシェの仕掛けた罠も簡単に突破する。三人は次第に追い詰められていく。
「このままじゃまずい！」イシェは叫び、必死に考えを巡らせた。その時、ラーンが突然黙り込んだ。彼の表情はいつもの軽快さから一変し、鋭い光を宿していた。
ラーンの視線が影に向けられた瞬間、空気が一瞬だけ静止したように見えた。そして、ラーンは動き出した。その動きは、これまで見せたことのないほど速く、正確だった。影の攻撃をかわしながら、隙を見つけて一撃を加える。
影は苦しげにうなり声を上げ、徐々に力を失っていく。ついに倒れた影からは、奇妙な黒い煙が立ち上り、ゆっくりと消えていった。
三人は互いに顔を見合わせた。ラーンの表情は再びいつもの明るさを取り戻していたが、彼の目はどこか遠くを見つめていた。「あの…一体何だったんだ？」イシェが尋ねると、ラーンは深く息を吸い込み、ゆっくりと言った。「今はまだわからない…でも、きっと何か大切なことが隠されているはずだ」