「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂によると最上階には古代の魔導書が眠っているらしいぞ!」
ラーンの豪快な声は、ビレーの狭い路地裏にこだました。イシェは眉をひそめた。「また荒唐無稽な話かい?そんな本、本当に存在するのか?」
「ま、信じてないわけじゃないんだが…」とラーンは言葉を濁す。イシェは彼の背後からテルヘルに視線を向けた。テルヘルは冷静に地図を広げ、「情報源は信頼できるものだ。魔導書があれば、ヴォルダンへの復讐も加速するだろう。」と冷たく言った。
イシェはため息をついた。「いつもあの塔は危険だって言ってるじゃないか。魔物が徘徊しているって噂もあるし…」
「大丈夫だ、イシェ。俺が守るから」ラーンは自信満々に笑った。だがイシェの不安は消えなかった。
塔へ向かう道中、不気味な静けさが彼らを包んだ。鳥のさえずりも虫の声も聞こえない。まるでこの場所を避けるように、自然が息を潜めているかのようだった。
塔に入ると、冷たい空気が彼らを襲った。崩れかけた石畳の上には、何十年も放置された埃が積もり、薄暗い光だけが差し込んでいた。ラーンは剣を握りしめ、イシェは懐中電灯を点けた。テルヘルは常に周囲を警戒しながら、最上階への道を進んでいった。
階段を登るにつれ、不吉な気配が強まっていった。壁には奇妙な模様が刻まれており、まるで魔術の呪文のように見えた。イシェは背筋がゾッとする感覚に襲われた。
そしてついに、最上階に到着した。そこには広大な書庫が広がっていた。古びた本が所狭しと並べられ、埃をかぶって朽ちかけているものもあった。中央には、豪華な装飾が施された魔導書が置かれていた。
「あれだ!」ラーンは興奮気味に叫んだ。だがその瞬間、床から黒い煙が噴き上がった。煙の中から、 grotesquely twisted 形態の影が現れた。それは、邪悪な魔力に満ちた魔物だった。
ラーンの剣が光り、イシェは素早く後ずさった。テルヘルは冷静に魔導書に手を伸ばした。彼女の指先から青い光が放たれ、魔物を包み込んだ。魔物は苦しげにうめき声を上げ、ゆっくりと消滅していった。
「よかった…」イシェは安堵の息をついた。だが、この冒険はまだ終わっていないことを彼らは知っていた。魔導書には、ヴォルダンへの復讐だけでなく、この世界を揺るがす力があると確信したから。