ラーンが、錆びた剣を片手に遺跡の入り口に立っていた。いつもならイシェが彼を制止するはずだったが、今日は違う。イシェは顔色が悪い。
「どうしたんだ? イシェ、何かあったのか?」
イシェは小さくうなずいた。「あの遺跡…テルヘルが言うように危険を感じた。何かがおかしい。」
ラーンはイシェの言葉に耳を傾けようと努めたが、彼の心はすでに遺跡の中にある宝物への渇望で満たされていた。
「大丈夫だ、イシェ。僕がいるから大丈夫だ。」
ラーンの言葉に、イシェは苦笑した。「いつもそう言うよね。」
テルヘルは背後から冷ややかに言った。「時間がない。入らないのか?」
ラーンの視線はテルヘルの鋭い眼光に奪われた。彼女の目はまるで、遺跡の奥底にある何かを覗き込んでいるようだった。
「よし、行くぞ!」
ラーンが踏み出すと、イシェも渋々ついてきた。遺跡の入り口は、暗くて湿った空気に満たされていた。壁には何とも言えない不気味な模様が刻まれていた。
深く進むにつれて、空気が重くなっていった。イシェは背筋がゾッとする感覚を覚えた。まるで、何かが彼らをじっと見つめているような気がしたのだ。
「ここ…何か変だ…」
イシェが呟くと、突然、地面が崩れ始めた。ラーンは驚いてバランスを崩しそうになったが、イシェに支えられた。
崩れた地面から、黒く光る液体が出てきた。それはまるで、生き物のようだった。
「何だこれ…? 」
ラーンの言葉を遮るかのように、黒液は彼らを包み始めた。冷たい触感と腐ったような臭いが、彼らの鼻腔を刺激した。イシェは恐怖で体が硬直していたが、ラーンの手は冷たさと共に、力強く握りしめていた。
「イシェ…大丈夫だ。」
ラーンの声がかすれた。彼はイシェの目をじっと見つめた。「僕がいるから…絶対に大丈夫だ。」
その時、黒液の中から赤い光が差し込んだ。それはまるで、骨髄のように深く、生命そのものを象徴するような光だった。ラーンは恐怖を忘れ、光に引き寄せられるように、黒液の中へ進んでいった。
イシェはラーンの姿を見失い、絶望したように叫んだ。「ラーン! 」
しかし、彼の声は黒液によって飲み込まれてしまった。