「よし、今回はあの崩れた塔だ」
ラーンが目を輝かせ、地図を広げた。イシェは眉間に皺を寄せた。
「また危険な場所かい? ラーン、あの塔は噂では魔物が出るって聞いたぞ。それにあの遺跡はヴォルダン軍にも狙われてるって話だ」
「そんなこと気にすんな!俺たちにはテルヘルがいるだろ?それに大穴が見つかるかもしれないんだぞ!ほら、イシェもワクワクしないか?」
ラーンの言葉に、イシェは小さくため息をついた。ラーンと違って、彼女は危険を避けることが先決だと考えている。しかし、ラーンの熱意と彼の仲間としての信頼感には抗えないものがあった。
「わかった、行くわ。でも、何かあったらすぐに逃げ出すからね」
こうして三人は崩れた塔へと向かった。塔はかつて栄華を誇っていた様子だが、今は朽ち果て、石畳に苔が生え、壁にはひびが入っている。
「ここに入る前に、念のため準備をしておくぞ」
テルヘルがそう言うと、小さな袋から粉末のようなものを取り出した。それは魔除けの薬だ。彼女は慎重に三人の体に塗り始めた。
「この塔は魔物だけでなく、ヴォルダンの兵士にも狙われている可能性がある。気を引き締めて行動しなさい」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは頷いた。彼らは塔の入り口に足を踏み入れた。薄暗い塔内は埃っぽく、不気味な静けさに包まれている。
「何かいる気がする…」
イシェが小声で言った。ラーンの顔色が変わった。彼の鋭い感覚は、イシェの言葉を裏付けるように、かすかな気配を感じ取っていた。
その時、壁の奥から骨のような音がした。それはまるで、何者かがゆっくりと動いているような音だ。ラーンは剣を抜き、イシェは緊張した表情で周囲を見回した。テルヘルは冷静に状況を判断し、三人に指示を出した。
「あの石柱の影に隠れるんだ!そして、私が合図を出すまで動かずにいろ!」
三人はテルヘルの指示に従い、石柱の影に身を潜めた。そこに、壁の中からゆっくりと姿を現したのは、巨大な骨格の怪物だった。その目は赤く燃え盛っていて、鋭い牙がむき出しになっている。
「あの怪物は…」
イシェは言葉を失った。ラーンは握りしめた剣を震わせながら、怪物に立ち向かうことを決意した。しかし、テルヘルは彼を制止した。
「待て、ラーン!あの怪物は骨肉を操る魔物だ。直接攻撃しても無駄だ」
テルヘルは冷静な判断で、三人に逃げ道を確保しようと計画を立て始めた。だが、その瞬間、怪物がラーンの位置を察知し、巨大な腕を振り下ろした。ラーンは咄嗟に身をかわしたが、怪物が放った衝撃波は彼を吹き飛ばした。
「ラーン!」
イシェが悲鳴を上げた。ラーンは壁に激突し、意識を失ってしまった。
「落ち着け、イシェ。まだ諦めるな!」
テルヘルが冷静に言った。彼女は怪物に立ち向かうのではなく、ラーンを助け出すことに全力を注いだ。イシェもテルヘルの指示に従い、ラーンの元へと駆け寄った。
三人の運命は、この崩れた塔の奥深くに眠る謎と共に、まだ明らかになっていない…。