「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂によると奥深くには未開の部屋があるらしいぞ」
ラーンの豪快な声はいつも通りビレーの朝の静けさを打ち破った。イシェはいつものように眉間にしわを寄せながら、彼の計画に首を傾げた。「またそんな曖昧な情報源か? 以前もあの崩れかけた橋を渡ろうとして、お前が足首を骨折したのを忘れたのか?」
「あいつは違うんだ! この情報は確かなものだ」ラーンはイシェの言葉を遮り、自信満々に言った。だが、イシェは彼の瞳に映る興奮よりも、過去の失敗を思い出すたびに胸が締め付けられるのを感じていた。
「今回は俺たちの腕前を見せつけるチャンスだ。あの遺跡には貴重な遺物があるとテルヘルも言ってたぞ」ラーンの言葉に、イシェは小さくため息をついた。テルヘルはいつも高額な報酬と引き換えに危険な遺跡を指示してくる。彼女自身もかつてヴォルダンに全てを奪われたという過去があり、復讐心を燃やしているらしい。
「よし、準備はいいか?」ラーンの声でイシェの考えは中断された。彼はすでに剣を手に取り、目を輝かせていた。イシェは深く息を吸い込み、小さく頷いた。「わかった、行くぞ」
崩れかけた塔に続く道を進むにつれて、不吉な風が吹き始めた。日差しも届かず、湿った石畳の上には苔が生え、足元を滑らせようとする。ラーンは先頭を走り、イシェは彼を少し遅れて慎重に進んでいく。
塔の内部は薄暗く、埃っぽい空気が立ち込めていて呼吸が苦しい。崩れ落ちた壁や天井から、石ころが時折落ちてくる。ラーンの足音は軽快だが、イシェは一歩一歩慎重に足を運び、周囲を警戒していた。
「ここは以前にも来たことがある」イシェが言った。「あの崩れた階段の下に、何か奇妙な音がしたことがあったんだ」
ラーンは振り返り、「そうか? 今回はしっかり確かめてみようぜ!」と答えた。彼は階段の残骸を軽々と飛び越えて先に進もうとしたその時、足元が崩れ、彼はバランスを崩して転げ落ちていった。
「ラーン!」イシェが叫びながら駆け寄ると、ラーンの姿は既に瓦礫の下敷きになっていた。「大丈夫か!? 」
ラーンの声はかすれていた。「うっ…痛い…足が…」
イシェは慌てて瓦礫をどかし、ラーンの足元を確認した。彼の足は不自然に曲がっていた。骨折だ。イシェの心は冷たくなった。
「落ち着け、ラーン。俺が助け出すから」イシェは必死に瓦礫をどかし始めた。だが、この状況を打破できるのか、イシェ自身には自信がなかった。