「おい、イシェ、準備はいいか？」ラーンが陽気に声をかけた。イシェは道具の確認を終え、小さく頷いた。テルヘルはいつものように無表情で、二人が準備する様子をじっと見ていた。今日の遺跡は、ビレーから南へ一日の道のり。噂では、かつて強力な魔術師が住んでいたという廃墟だ。
「よし、行こう！」ラーンの一声で三人は遺跡へと向かった。道中、ラーンはいつものように口が止まらない。「イシェ、あの時、あの宝箱の場所を間違えたのはお前だろ？あいつが怒ってたって聞いたぞ」 イシェはため息をつきながら、「もういいわよ、ラーン。あの時は本当にわからなかったのよ。それに、あの宝箱には何も入っていなかったじゃない」と反論した。
テルヘルは二人が言い合っているのをじっと見ているだけだった。彼女は彼らが遺跡に潜る理由を知っている。ラーンにとっては単なる冒険心、イシェにとっては現実逃避かもしれない。だが、彼女にとって遺跡は復讐を果たすための手段だ。ヴォルダンの兵士たちが残した手がかりをたどり、彼らを滅ぼすために必要な情報を得るためだ。
遺跡の入り口に近づくと、荒れ果てた石造りの建物が見えてきた。かつては栄華を極めた城のようだが、今は崩れ落ち、苔むした壁がむき出しになっている。「ここか…」イシェの声は少し震えていた。ラーンは興奮気味に剣を抜いた。「よし！宝物を探すぞ！」と叫びながら遺跡の中へ飛び込んだ。イシェはテルヘルに視線を向け、「気を付けて」と呟いた。テルヘルは小さく頷き、二人が遺跡の中へ消えるのを見送った。
遺跡内は暗く、埃っぽい空気が漂っていた。床には崩れ落ちた石や瓦が散らばり、壁には奇妙な模様が刻まれている。ラーンは興味津々に周囲を探索し、イシェは慎重に足元を確認しながら進んでいた。テルヘルは後方から二人を見守りながら、遺跡の構造を分析していた。
「おい、イシェ！ここを見てみろ！」ラーンの声が響いた。イシェが駆け寄ると、ラーンが石の板を指さしていた。そこには複雑な文字が刻まれており、イシェは一瞬でその意味を理解した。「これは…古代語だ！」 イシェの声にラーンとテルヘルも驚きを隠せなかった。
「古代語か…」テルヘルは目を細めながら、石の板をじっと見つめた。彼女は古代語を解読する能力を持っていたが、この文字は彼女が見聞きしたことがないものだった。「これは…ヴォルダンとは関係がない…」テルヘルは呟いた。イシェとラーンは驚愕し、テルヘルの言葉の意味を理解しようとした。
その時、遺跡の奥から不気味な音が響き渡った。三人は顔を見合わせ、互いに意思を交わしたように剣を握りしめた。彼らの冒険は、今、新たな展開を迎えることとなる。