「よし、今回はあの崩れた塔だ!」
ラーンの腕が躍るように剣を構える。イシェは眉間にシワを寄せて地図を広げた。「待て、ラーン。あの塔は危険だって聞いたことがある。罠だらけだと…」
「そんなの気にすんな!大穴が見つかるかもな!ほら、テルヘルも賛成してるだろ?」
テルヘルが小さく頷く。その目は冷たく鋭く、何物にも怯えていない。イシェはラーンの無謀さにいつも不安になるが、テルヘルの存在は何かを予感させる。
ビレーの遺跡探索は日課のようだった。ラーンとイシェは幼い頃から、この町の遺跡に囲まれた風景を背景に育った。イシェの養父母は穏やかで優しい人たちだったが、ラーンの両親は早世し、彼が一人で荒れ狂うように育ったのは街の人々の記憶にも残っている。
「よし、行くぞ!」
ラーンが先頭に立ち、崩れた石畳を駆け上がる。イシェは後からついていく。テルヘルは二人を見つめる視線が鋭い。遺跡の奥深くへと続く階段を降りるにつれて、冷たい風が吹き付ける。壁には奇妙な模様が刻まれていて、不気味な雰囲気を漂わせる。
「ここからは慎重に…」
イシェが言い終わらないうちに、床板が音を立てて崩れ落ちた。ラーンはバランスを崩しそうになるが、素早く剣で支え立ち直った。「大丈夫だ!気にすんな!」と彼は笑うが、イシェは背筋が寒くなるのを感じた。
「ここには何かがいる…」
テルヘルの声が低い。彼女は手にしていた杖に光を灯す。その光が壁に反射し、奇妙な影を浮かび上がらせる。「この遺跡には、かつてヴォルダンが封印した何かが眠っているかもしれない」
イシェは息を呑んだ。ヴォルダンは、テルヘルを全てを奪った存在である。彼女は復讐のために生きているのだ。イシェはラーンの無謀さに呆れていたが、彼とテルヘルが織りなすこの物語には、どこかで自分も巻き込まれているような気がしていた。
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