「よし、今回はあの崩れかけた塔だな」ラーンが地図を広げると、イシェは眉をひそめた。「また危険な場所か?あの塔は噂で、魔物が出るとか…」
ラーンは笑い飛ばした。「そんなの迷信だ!ほら、テルヘルさんも言ってただろう?遺跡には必ず何かがあるって!」
テルヘルは薄暗い部屋の隅で、古びた書物に目を落としている。彼女がヴォルダンへの復讐心を燃やすきっかけになった出来事、そしてその復讐を果たすために必要な情報を求めて各地の遺跡を巡っていることを、ラーンとイシェは知らない。彼女はただ、彼らを使い、目的のために利用しているに過ぎない。
「今回は特に慎重に進もう」イシェが言った。「あの塔は崩れかかっていて、足場が悪いぞ。それに…」彼女の視線がラーンの背中に向けられた。ラーンの肩には、いつもより目立つ大きな傷跡があった。それは数年前の遺跡探索で負った傷だ。
「ああ、あの時だな」ラーンが苦笑した。「あの時は危なかったな…養母に怒られそうになったよ」
イシェは黙り込んだ。ラーンの養母はビレーで有名な薬草師であり、いつもラーンを心配していた。彼女はラーンの冒険心に手を焼いており、遺跡探索を止めさせようと何度も説得したが、ラーンの決意は固かった。
「準備はいいか?」テルヘルが立ち上がり、鋭い視線で彼らを睨んだ。「今回は特に慎重に動け。ヴォルダンとの戦いは、これからだ」
ラーンとイシェは互いに頷き合った。彼らはテルヘルの言葉の意味を理解していなかったが、彼女の言葉にはいつも重みがあった。そして、彼らにとって遺跡探索は単なる冒険ではなく、何か大きなものの一部であるような気がしていた。