「よし、ここだ!」ラーンの低い声が響き渡り、イシェは眉間に皺を寄せた。いつも通りの、計画性のない行動だった。遺跡の入り口付近で立ち止まり、周囲を見回すラーンにイシェはため息をついた。「本当にここに眠っているのか? そんな大穴が」
「大丈夫だって! 実感したんだ、この場所には何かあるって!」ラーンの自信に満ちた言葉は、イシェには空虚に聞こえた。彼らはこの遺跡を何週間も探索していたが、まだ何も見つかっていない。それでもラーンは熱意を失わず、まるで宝探しをしている子供のように楽しそうに探検を続けている。
「大穴」とは、伝説の遺跡に眠るとされる莫大な財宝のことだった。ビレーの人々は誰もが「大穴」を夢見ていたが、イシェは現実的であった。そんな夢物語に囚われるよりも、堅実な暮らしを送りたいと考えていた。
その時、背後から冷たく声が響いた。「準備はいいか?」テルヘルは鋭い視線でラーンとイシェを見据えていた。彼女はいつも通り黒のローブを身に纏い、腰には剣が納まっている。テルヘルの目的は「大穴」ではなく、ヴォルダンへの復讐だった。そのために遺跡を探し、必要な情報を集めているのだ。
「よし、行くぞ!」ラーンは剣を抜いて遺跡の中へと踏み入った。イシェもテルヘルに続いて遺跡に足を踏み入れた。薄暗い空気が彼らを包み込み、壁には謎の記号が刻まれていた。
遺跡内部は複雑な構造になっており、いくつもの通路に分かれていた。ラーンの無計画な行動にイシェはため息をつきながら、テルヘルは地図を広げて進路を確認していた。彼女は遺跡の構造を理解し、必要な情報を効率的に収集しようと試みていた。
深い闇の中を進んでいくと、突然壁から光が放たれ、通路の一部が崩れ落ちた。ラーンは驚いて叫び、イシェは咄嗟に彼を引き戻した。崩落した場所に何かが埋まっているようだった。
「何だこれは…」ラーンの言葉に促されるように、テルヘルが崩落した場所の近くで何かを発見した。「これは…!」テルヘルの声は興奮を隠せない。彼女は崩れ落ちた石の下から、小さな箱を取り出した。箱には複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように光っていた。
「これは何だ?」イシェは箱をじっと見つめていた。ラーンも興味津々に箱に近づこうとしたが、テルヘルはそれを制止した。「触るな! これに触れるのは危険だ」彼女は真剣な表情で警告を発した。
箱を開けることなく、テルヘルはすぐに遺跡から脱出しようとした。しかし、その時、崩落した通路から巨大な影が現れた。それは、遺跡に眠っていた何かが目を覚ましたことを意味していた。