「おい、イシェ、今日はここだな！」ラーンが剣を構えながら、崩れかけた石のアーチに向かって叫んだ。イシェはため息をつきながら、彼の手がかりとなる古びた地図を広げた。
「また迷子か？」
「迷子じゃない！新しい遺跡発見だ！」ラーンはにやりと笑った。「ほら、この壁画、見たことあるか？」
イシェは壁画を注意深く観察した。そこに描かれていたのは、渦巻く模様と、奇妙な生き物の姿だった。
「これならテルヘルも喜ぶだろう」イシェは呟いた。
テルヘルはいつも冷静で計算高いが、遺跡にまつわる謎や歴史には強い興味を示す。特にヴォルダンに関連する遺跡については、執念深いほど探求しようとする。
「よし、入ってみよう！」ラーンは興奮気味に石のアーチをくぐろうとした時、イシェが彼の腕をつかんだ。
「待て！何か変だ」イシェは周囲を警戒しながら言った。「この遺跡、なんか違う…不自然な感じがする」
その時、アーチの上から影が落ちてきた。ラーンとイシェが顔を上げると、そこには黒装束の女性が立っていた。鋭い眼光で二人を見下ろすその顔は、どこか見覚えがあった。
「お前たちだ…」女性は冷酷な声で言った。「ヴォルダンに仕える者だ。お前たちの目的は何か？」
ラーンは剣を抜こうとしたが、イシェが彼を押さえた。
「落ち着け！誰なのか話してみよう」
女性は少しだけ眉をひそめた。「私は…かつてヴォルダンに全てを奪われた者だ。そして復讐のために生きている」
彼女はゆっくりと口を開いた。「私の名はテルヘル。お前たちの雇い主でもある」
ラーンの顔色が変わった。イシェも驚きを隠せない。
「待てよ…テルヘル？」イシェは言った。「だが、お前は…」
「私はヴォルダンに育てられた養女だ。」テルヘルは冷たい目で言った。「そして、いつか必ず彼を滅ぼす」