「よし、今日はあの崩れかけた塔だな！」ラーンの声はいつも通りの明るさで、イシェの眉間にしわを寄せるのに十分だった。
「また遺跡か…本当にあの塔から何かが出ると思うのか？」イシェはため息をつきながら、道具の整理を始めた。ラーンが言うように、ビレー周辺には数え切れないほどの遺跡があった。だが、ほとんどの場合、朽ち果てた石や錆びついた金属片しか出てこない。
「いつか大穴が見つかるさ！あの塔には何かあるって感じるんだ！」ラーンの瞳は輝いていた。イシェは彼の熱意に心を痛めた。あの瞳はいつからか、かつての輝きを失い始めていたように見えた。冒険への憧憬が、単なる日暮らしの繰り返しの虚しさに変わっていくのを感じていたのだ。
「よし、準備はいいぞ！」ラーンが剣を手にすると、イシェも仕込み杖を持ち、テルヘルが後ろからついてきた。彼女はいつも通り、無表情で冷静だった。
遺跡の入り口に近づくと、テルヘルが手を止めた。「ここは少し様子を伺う必要がある」と、彼女は周囲を警戒しながら言った。ラーンの瞳は一瞬曇ったが、すぐにいつもの明るさを取り戻した。「気にすんな！俺たちにはテルヘルがいるんだから大丈夫だ！」
崩れかけた塔の内部は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。ラーンは先頭に立って進んでいくが、イシェは彼の後ろを少し離して慎重に足取りを確かめた。
「ここには何かいる気配を感じる…」テルヘルの声が響いた。ラーンの表情が少し硬くなった。「何がいるんだ？」イシェも緊張感を覚えた。だが、テルヘルは答えず、静かに周囲を見回した。
その時、突然、壁の奥から奇妙な音がした。ラーンはすぐに剣を構え、イシェも杖を握りしめた。音は近づいてくるようだった。
「何だ…！」ラーンの声が震えていた。イシェは彼の後ろに回り込み、視界に入る範囲を探した。
音は次第に大きくなり、やがて壁の奥から何かが飛び出してきた。それは奇妙な形をした生き物で、鋭い牙と赤い目を持ち、不気味な音を立てていた。ラーンの剣が光り、イシェも杖を振るった。テルヘルは冷静に動き、影のように敵の背後に回り込んだ。
激しい戦いが始まった。ラーンは力強く剣を振り回し、イシェは素早く動き回ることで敵の攻撃をかわし、テルヘルは正確な攻撃で敵の動きを封じ込んでいった。
しかし、その生き物も強かった。不気味な音を立てながら、襲いかかってくるたびに、イシェは戦いの虚しさを感じていた。この繰り返しの日々から抜け出したいという思いが募り、イシェはいつしか「飽きる」という言葉が頭に浮かんでいた。
戦いは長引いたが、ついにラーンの剣が生き物の心臓を貫き、その息の根を止めた。激しい呼吸を整え、三人は互いに顔を見合わせた。勝利した喜びよりも、疲労と虚しさの方が大きかった。
「これでまた…」イシェは言葉に詰まった。ラーンはいつもの笑顔で言った。「よし、次の遺跡だ！」だが、彼の瞳には以前のような輝きがなかった。
イシェは、ラーンの言葉を聞いても、もう何も感じることができなかった。飽き飽きした冒険の繰り返し、そして見出せない「大穴」。イシェはどこかで諦め始めていたことに気づかされた。