「よし、今回はあの洞窟だな」ラーンが地図を広げ、汚れた指で地点を示した。イシェは眉間に皺を寄せた。「また危険な場所か。あの洞窟は崩落の噂があったぞ」。ラーンの豪快な笑いは、イシェの冷静さをかき消すには至らなかった。「大丈夫だ、俺が先導するからな!それにテルヘルが報酬を上げてくれたんだろ?」ラーンはそう言うと、テルヘルの方へ視線を向けた。テルヘルは冷たい目で地図を確認し、「準備はいいか?今回は情報収集が重要だ」とだけ言った。
ビレーではここ数年、凶作が続いていた。貧しい人々の生活はさらに苦しくなり、遺跡探検の危険を冒す者も増えた。ラーンとイシェもその例外ではなかった。
洞窟への入り口は狭く、湿った臭気が漂っていた。ラーンの懐中電灯の光が壁に反射し、不気味な影を描き出す。「ここら辺は以前から遺跡だと噂になっていたんだろ?」イシェが呟いた。「確かに何か…ある気がする」テルヘルが言った。「気を引き締めて進もう」。
崩落した通路を進むにつれて、空気が重くなっていった。ラーンの足取りもぎこちなくなってきた。「おい、イシェ、お前大丈夫か?顔色が悪いぞ」ラーンが声をかけた。「…少し疲れただけだ」イシェはそう言うと、壁に手を当てて立ち止まった。その時だった。
天井から石が崩れ落ち、ラーンを直撃した。彼はよろめきながら倒れ込み、意識を失った。「ラーン!」イシェが駆け寄ると、テルヘルも剣を抜いて周囲を警戒した。「何者だ!出てこい!」
しかし、洞窟の中に他に存在するものはなかった。石ころだけが転がり落ちただけだった。イシェはラーンの顔色を伺いながら、恐怖に震えた。「…大丈夫か?」イシェが声をかけた時、ラーンの唇がわずかに動いた。「イシェ…」彼の声はかすれていた。「あの遺跡…何かあった…」。
テルヘルはラーンを支えながら立ち上がらせ、「何があったのか?話せ!」と迫った。しかし、ラーンの目は空虚に遠くを見つめていた。イシェは彼の手を取り、助け起こそうとした。その時、洞窟の奥から、かすかな音色が聞こえてきた。それはまるで…飢えた狼の遠吠えのようだった。