ラーンの豪快な笑い声がビレーの朝の静けさを打ち破った。イシェが眉間にしわを寄せながら、パンを小さくちぎって口に入れた。
「また大穴だなんて、そんな都合の良い話があるわけないだろう」
「あはは、イシェったらいつも悲観的だな！いつか必ず掘り当てられるさ！」
ラーンは満面の笑みで、テーブルに置かれた粗末な地図を指差した。イシェはため息をつきながら、テルヘルの方を見た。彼女はいつものように無表情で、パンを一口食べ終えると、静かに口を開いた。
「今日の遺跡は、ヴォルダンとの国境に近い場所だ。警戒が必要だ」
ラーンの顔色が少し曇ったが、すぐに元通りの笑顔に戻り、食欲旺盛に食事を続けた。イシェはテルヘルの言葉にわずかに反応を示す。ヴォルダンへの復讐心は、彼女にとって常に影のように付きまとう存在だった。イシェは自分たちの目的とは関係ないことだと割り切っていたが、テルヘルを見ていると、その強い憎悪に心を痛めた。
遺跡に到着すると、ラーンはいつものように無謀にも先頭に立って入っていった。イシェは後を追い、テルヘルは二人を冷静に見つめていた。遺跡の奥深くには、奇妙な模様が刻まれた石の扉があった。扉の前に立ち止まったラーンの背中に、イシェは緊張を感じた。
「何かを感じる」
イシェの声に、ラーンは振り返った。「何だ？」
その時、扉から不気味な音が響き渡り、三人は同時に剣を構えた。扉がゆっくりと開き始め、そこから漂ってくるのは、腐敗した肉の臭いと、奇妙な甘さだった。
食欲をそそるような匂いなのに、同時に吐き気を催すような嫌悪感を覚えた。ラーンは一瞬ためらったが、すぐに扉に飛び込んだ。イシェはラーンの後ろを走り、テルヘルも冷静に後を追った。扉の向こうには、広がる闇の中に、何かが蠢いているのが見えた。