「おいラーン、今日は何食べるんだ？」イシェが、いつも通りの無精ひげの伸びた顔でラーンに尋ねた。ラーンの背中は、遺跡の入り口に向かって既に進んでいく。
「そりゃあな、今日の戦利品だな！きっと何かいいのが見つかるぜ！」ラーンは振り返らずに答えた。彼の口調はいつも自信に満ち溢れていたが、イシェにはいつもどこか不穏な予感がした。
ビレーの食料事情は決して良いとは言えなかった。遺跡探索で得た遺物や宝石を換金して食いつないだが、大抵の場合、その日暮らしの生活を送るしかなかった。
「そんなこと言っててもな、あの遺跡には何もないって可能性もあるだろ？それに、テルヘルに払う日当も考えると…」イシェは呟いた。テルヘルの報酬は高額だったが、その分彼女の要求も厳しい。危険な遺跡を選ばせられることも多く、食料を手に入れるための余裕がなかったのだ。
「大丈夫だ、イシェ！俺たちに大穴があるって信じてるんだ！」ラーンは振り返り、イシェに満面の笑みを向けた。彼の目は輝いていたが、イシェにはどこか虚ろな光さえ見えた気がした。
遺跡の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。彼らは慎重に足取りを運びながら進んでいく。ラーンの大雑把な性格とは対照的に、イシェは周囲をよく観察し、足元の石や壁のひび割れにも気を配っていた。
「おいラーン、あの奥にある部屋は？」イシェが指さす方向には、薄暗い通路の先に謎めいた扉があった。
「よし！ここだ！」ラーンの目が輝き、彼は興奮気味に扉へ駆け寄った。イシェはため息をつきながら、彼の後を続けた。
扉を開けると、そこは広大な部屋だった。壁一面には、奇妙な模様が刻まれた石板が並んでいた。中央には、祭壇のようなものが置かれていて、その上に何かが置かれているように見えた。
「おお！これは…」ラーンの声は震えていた。彼は祭壇に近づき、そっと布を払いのけた。そこには、輝く金貨の山があった。
「やったー！」ラーンは大喜びで金貨を手に取った。イシェも思わず息をのんだ。
「これでしばらく食料に困ることはないだろうな…」イシェは呟いた。ラーンの顔は満面の笑みで、彼の目は輝いていた。しかし、イシェの心には、どこか不安が残っていた。