「よし、今日はあの崩れた塔だな! 以前から気になってたんだ」ラーンが目を輝かせ、粗末な地図を広げた。イシェは眉をひそめた。「また行き当たりばったりか? テルヘルさん、どう思う?」
テルヘルは薄暗い酒場の隅で、一杯の赤い液体を静かに飲んでいた。「情報収集は怠っていないようだな。塔の情報があるのか?」
「ああ、昔、王家の墓だったらしいんだ。宝が眠ってると噂もあるし…!」ラーンの言葉にイシェはため息をついた。「宝探しにばかり熱中して、本当に危険な目に遭うんじゃないか心配だ」
テルヘルは静かに杯を傾け、「危険は伴う。だが、報酬も大きい。それに…」彼女は鋭い視線でラーンを見据えた。「君たちの力は、この世界を変える力になるかもしれない」
ビレーを出発する朝、イシェは小さな包みを握りしめていた。それは、母親が遺跡探索に出かける前に必ず作ってくれた、甘い香りのするパンだった。いつもより少し多めに焼いてくれた。不安な気持ちと、仲間への感謝の気持ちが胸を温めた。
遺跡の入り口では、ラーンの興奮を抑えきれない様子にイシェは苦笑した。「落ち着いて、計画的に行動しようよ」
「ああ、分かってるって!」ラーンは剣を抜いて塔へと駆け込んだ。テルヘルは静かに後ろをついていく。イシェは深呼吸をして、三人の後を追った。
崩れた石畳の上を進み、暗い内部へ足を踏み入れると、不気味な静寂が訪れる。壁には謎の文字が刻まれており、埃をかぶった宝箱が転がっていた。ラーンは目を輝かせながら、箱を開けようと手を伸ばした。
「待て!」イシェが叫んだ。しかし、遅かった。箱が開かれると同時に、強烈な光が放たれ、三人は吹き飛ばされた。
目覚めたとき、彼らは広間の一角に倒れていた。ラーンの顔は真っ黒に焦げていた。「やられた…」イシェは心配そうに彼に触れた。「大丈夫か?」
「ああ、何とか…あれは何だったんだ?」
その時、テルヘルが何かを拾い上げた。「これは…!」彼女は驚きの声を上げ、テーブルの上に置かれた石の板を見つめた。それは、古代文明の文字で書かれた地図だった。
「これは…」イシェは息をのんだ。「ヴォルダン王国の遺跡への道図…!」
ラーンの顔には興奮の色が戻ってきた。「これでついに、大穴を掘り当てられるかもしれない!」
イシェは、ラーンの熱狂に巻き込まれながらも、どこか不安な気持ちを抱いていた。地図の真の意味、そしてその先に待つものとは何なのか。
夜になり、ビレーに戻ると、イシェはいつものように母親が作ったパンを食べた。温かいスープと共に、今日の出来事を思い返した。危険と隣り合わせの遺跡探索、そして、それを支える仲間たちとの絆。
「あのパン、いつもより甘かったな」ラーンの声が聞こえた。「きっと、今日は何かいいことが起こる予感がするんだ!」
イシェは小さく笑った。仲間たちの未来を信じたい気持ちと、同時に、どこかで、この世界が抱える真実に触れる恐怖を感じていた。