ラーンの鼻腔をくすぐるような砂埃の匂い。ビレーの外れにある遺跡の出入口では、いつもより風が強く吹き荒れていた。イシェが眉間に皺を寄せながら、薄汚れた布切れで口と鼻を覆う。「今日は風向きが悪いな。遺跡内部はどうなるか…」
ラーンはそんなイシェの言葉を無視して、巨大な石扉に手を当てた。「よし、行こうぜ！今回はきっと何か見つかるぞ！」彼の瞳にはいつもの煌めきが宿っていた。テルヘルは鋭い視線で周囲を見渡しながら、「注意しろ。風向きが変わるたびに、内部の構造も変化する可能性がある」と冷静に告げた。
遺跡内部に入ると、そこはまるで別の世界だった。薄暗い空間に差し込むわずかな光が、埃舞う空間を不気味に照らし出す。ラーンの足音だけが響き渡る静寂の中、イシェは常に周囲に気を配りながら、足取りを軽くしていた。テルヘルは後ろから彼らを見つめながら、地図を広げている。
「ここには以前から噂のあった、謎の部屋があるはずだ。風通しが悪ければ、その部屋に入ることはできないだろう」と彼女は言った。ラーンの興奮を冷ますかのような言葉だった。イシェは小さく頷き、ラーンに静かに声をかけた。「今回は慎重に進もう。テルヘルの言う通り、何か変を感じたらすぐに引き返そう」
ラーンは少し不満そうに顔をしかめたが、イシェの言葉には従うように頷いた。彼らは風通しの悪い通路を慎重に進んでいく。時折、崩れかかった天井から石が落ちてくる音だけが、彼らの緊張感を高める。
やがて、通路の奥に奇妙な光が差し込んでいるのが見えた。それは、まるで部屋の中に小さな窓が開いているようだった。だが、そこに続く道は狭く、風通しが悪く、進めないほど埃っぽかった。「ここか…」イシェの声が震えていた。ラーンは興奮を抑えきれずに、その光に向かって走り出した。しかし、次の瞬間、彼の足元から崩れ落ちた石が彼を飲み込んだ。
「ラーン！」イシェとテルヘルの叫び声が響き渡る。埃が立ち込める中、イシェは慌ててラーンの手を掴もうとしたが、彼はすでに深い穴の中に落ちてしまった。
「大丈夫か！？ラーン！」イシェの叫び声は風に乗って、遺跡の奥深くへと消えていった。