ビレーの風車から吹き付ける涼しい風を感じながら、ラーンは剣を片手に遺跡への入口を見つめていた。イシェが地図を広げ、複雑な地形を指さしする。「今回はテルヘルさんの指示通り、南側の洞窟から入るんだって」
「南側か。あの洞窟は狭くて曲がりくねってるだろ? 嫌だなー」ラーンはため息をついた。イシェは小さく笑った。「いつも文句ばっかり言ってるけど、実は怖いんだよね」
「うるさいな! 俺には何も怖くない」ラーンの言葉に反して、足取りは少し重かった。遺跡の入り口には、いつもより多くの人が集まっていることに気づいた。「今日はテルヘルさんが何か大物を狙っているみたいだな」イシェが呟くと、ラーンは首を傾げた。「何のことだ?」
「知らないのか? 昨日、テルヘルさんは町の長老に風車のある丘の上で会っていたって。何か秘密の話をしていたらしいぞ」イシェは目を細めた。「風車の上から見える景色は、この周辺の遺跡の位置関係が良くわかるんだ。もしかしたら…」
ラーンはイシェの言葉を遮り、「そんなことどうでもいい! さっさと遺跡に入ろうぜ!」とばかりに、洞窟へと進んでいった。しかし、イシェはどこか不安を抱えたまま、ラーンの後を追いかけた。洞窟の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンが先頭を切って進もうとするが、足元には落とし穴が待ち受けていた。
「うわっ!」ラーンは叫び声を上げながら、深い穴に落ちていった。「ラーン!」イシェは慌てて駆け寄ると、テルヘルがすでにラーンの下に降りて助けようとしていた。「大丈夫か?」テルヘルは冷静な声でラーンを助け上げた。
「ああ… 俺は大丈夫だ」ラーンは顔をしかめながら立ち上がった。「でも、何だこの穴は!?」
「罠だ」テルヘルは鋭い目を光らせた。「誰かが意図的に仕掛けたものだ」イシェは不安げに周囲を見回した。「もしかして、あの風車の上でテルヘルさんが聞いた話と関係があるんじゃないのか…? 」
ラーンの顔には、今まで見たことのない表情が広がっていた。それは、単なる冒険心ではなく、何か大きな秘密に触れようとしている予感を抱いた瞬間だった。