ビレーの朝は、いつもより少し肌寒かった。ラーンがいつものように寝坊したのは、イシェが彼を起こすため頭の上に乗っかろうとした瞬間だった。イシェは「今日も遺跡か？」と呟きながら、ラーンの頭を叩いた。
「今日は違うんだ！テルヘルから大物依頼が入ったって話だ」
ラーンはイシェを振り落としながら飛び起き、目を輝かせた。テルヘルからの依頼はいつも高額だった。ビレーの風花が舞い上がるように、彼の心も興奮で踊っていた。
「どんな依頼？」
イシェは少し不安げに尋ねた。テルヘルの依頼は報酬が高い反面、危険も多い。
「詳細はまだだが、ヴォルダンとの国境に近い遺跡らしい。何か大きな遺物があるらしいぞ」
ラーンの興奮は抑えられず、すでに準備を始めていた。イシェはため息をつきながらも、彼に付き合わざるを得ない。テルヘルはいつも通り、ビレーの風花が舞う広場に現れた。黒いマントを翻しながら、彼女は鋭い目で二人を見つめた。
「今回はヴォルダンとの国境にある遺跡だ。強力な魔力が眠っていると伝えられている。危険だが報酬も大きい。協力してくれるか？」
ラーンの表情は一層輝きを増した。イシェはテルヘルの目を見て、何かを感じた。彼女の瞳には、単なる復讐心だけではなく、深い悲しみと、何かを成し遂げたいという強い意志が宿っていた。イシェは小さく頷いた。
「わかった。やるよ」