ラーンの大きな手で石を蹴飛ばすと、それは空中に弧を描いて土埃を巻き上げながら転がり落ちた。ビレーの郊外にある遺跡の出入り口付近は、夕暮れの柔らかな光で照らされながらも、どこか不気味な静けさに包まれていた。イシェが眉間に皺を寄せながら、近くの岩肌に刻まれた奇妙な記号を指差した。「あの記号、以前にも見たような…」。ラーンは首を傾げながら、「どこでだっけ？記憶がないな」と答えた。
テルヘルは背中に携えた大きな袋を軽く揺らしながら、「この遺跡には何かある気がする。慎重に進もう」と冷静に言った。彼女の目は鋭く、周囲の風景を常に警戒するように見て回っていた。夕闇が迫り、空の青は深い紫に染まりつつあった。
彼らは遺跡の入り口へと足を踏み入れた。石造りの通路は、かつて栄華を極めた文明の痕跡を感じさせる重厚な雰囲気を漂わせていた。しかし、今は埃っぽく、崩れかけている部分もあり、忘れられた歴史の静寂に包まれていた。
イシェが足元の石畳に目を向けると、「ここには何か刻まれている…」と呟いた。ラーンが近づいてみると、かすかに浮かび上がる文字が確認できた。「これは…？」。テルヘルはゆっくりと首を横に振った。「解読できない。だが、重要な手がかりになるかもしれない」。
彼らは深く暗い通路を進んでいった。壁には、奇妙な模様や絵画が描かれており、かつてここに何が起こっていたのか想像力を掻き立てるものばかりだった。
イシェは、ある場所に足を止めた。「ここだ」。彼女は壁に飾られた小さな石像を指差した。その石像は、まるで生き物のようであり、どこか不気味な表情をしていた。ラーンは「何だ、これ？」と問いかけたが、イシェは言葉を失ったまま石像を見つめていた。
テルヘルは、石像の背後に隠された小さな隙間を見つけ、「ここを開けてみよう」と言った。彼女は慎重に石を動かすと、そこには小さな箱が見つかった。箱には複雑な鍵がかかっていた。
「これは…」ラーンの視線が箱から離れず、イシェも息を呑んだ。「何か重要なものが入っているかもしれない」。テルヘルはそう言った後、ゆっくりと鍵の形状を観察し始めた。夕暮れの光が、石造りの壁に長く伸びる影を作り、彼らの表情を不気味に歪ませていた。
その時、遠くから獣の唸り声のような音が聞こえてきた。ラーンは剣を抜き、イシェとテルヘルを後ろに守りながら、「何だ？」と声を張り上げた。しかし、音はすぐに消え、周囲は再び静寂に包まれた。彼らは互いに顔を見合わせた。
「何かがいる…」イシェが呟いた。ラーンの心臓は激しく鼓動していた。彼は遺跡の奥深くへと続く通路を警戒しながら、ゆっくりと足を進めていった。