ビレーの朝はいつもように冷たかった。ラーンが小屋の戸を開けると、顔に冷たい風が吹き付けた。イシェはすでに朝食の準備を終え、火にかけられた釜から湯気が立ち上っている。
「今日はいい天気だな。遺跡探索には最高の条件だ」
ラーンはそう言って、イシェが用意したパンを頬張った。イシェはいつも通り冷静に地図を広げ、今日の遺跡の場所を確認している。「風向きも確認しておこう」と呟き、指で風を感じた。
「今日はテルヘルさんが来るんだろ?あの人のために遺跡を探るのって、なんだか気が重いな」
ラーンの言葉に、イシェは小さくため息をついた。「彼女には理由があるのだろう。それに、私たちだって報酬をもらっているんだし」
ビレーの街を出て、広がる平野を渡る風は冷たかった。遺跡へ向かう途中、ラーンとイシェはテルヘルと合流した。彼女はいつもより険しい表情をしていた。
「準備はいいか?」
テルヘルがそう尋ねると、ラーンはいつものように力強く頷いた。「いつでも行くぞ!」
イシェはテルヘルの言葉をじっと見つめていた。彼女の瞳には、何か深い影が宿っているようだった。遺跡に近づくと、冷たい風が吹き荒れ、地面を砂埃で覆った。ラーンの背中に、不吉な予感が走った。
「何か変だな…」
イシェの言葉通り、遺跡の入り口から、不気味な音が聞こえてきた。それはまるで、風の唸り声のようだった。三人は互いに顔を見合わせ、緊張した空気を共有した。
遺跡の中は暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンが先頭に立ち、剣を構えながら進んだ。イシェは後ろから彼の動きに注意深く目を配り、テルヘルは常に周囲を警戒していた。
彼らは遺跡の奥深くまで進み、ようやく目標の部屋を見つけた。そこには、輝く宝箱が置かれていた。
「やったぞ!」
ラーンの顔は喜びで輝いていたが、イシェは彼の肩に手を置き、静かに言った。「待て。何かおかしい」
その時、宝箱から不気味な光が放たれ、部屋中に風が巻き上がった。三人は目を細め、光源を見つめた。
そこには、巨大な影が浮かんでいた。それはまるで、風の精霊のような姿で、鋭い爪と牙を剥き出しにしていた。
「これは…」
テルヘルは声を失った。影はゆっくりと動き始め、三人に襲いかかるように迫ってきた。ラーンの剣が光り、イシェの魔法が炸裂する。しかし、影は簡単には倒れなかった。
激しい戦いが続いたが、三人は徐々に追い詰められていった。影は風の力を操り、三人を翻弄し続ける。
その時、テルヘルが何かを叫んだ。「この遺跡の風…ヴォルダンからの贈り物だ!」
彼女の言葉に、ラーンとイシェは驚きを隠せなかった。
「ヴォルダン?」
ラーンの声には、恐怖と怒りが混ざり合っていた。影は再び襲いかかってきた。三人は力を合わせて抵抗したが、影の力は強すぎる。
その時、イシェが何かを発見した。「あの風…!」
彼女は風の向きを注意深く感じ取り、あることに気づいた。影は風の流れによって動き、その方向に弱さがあるのだ。
イシェはラーンに指示を出し、テルヘルと共に戦いの構えを整えた。そして、三人は息の合った動きで影に攻撃を開始した。
激しい攻防が続き、ついに影は崩れ落ちた。三人は勝利を得たものの、疲れ果てている様子だった。
「ヴォルダン…」
テルヘルはつぶやきながら、遺跡からゆっくりと立ち去っていった。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせ、沈黙した。彼らは、この事件が自分たちの運命を大きく変える予感を感じていた。