ビレーの朝はいつも、石畳の上を響き渡る鍛冶屋のハンマーの音と混ざり合う鶏の鳴き声で始まる。ラーンは、その騒音の中でイシェの寝ぼけた声と、テルヘルの鋭い足音が聞こえてきたことに気づくと、ベッドから飛び起き上がった。
「今日も遺跡だ」
ラーンの言葉に、イシェは眠そうに頷いた。テルヘルは既に準備を済ませており、「時間がない」と短く告げると、扉の外へと消えていった。
三人は、ビレーの街外れにある遺跡へ向かう道中、足音が石ころの上で小さく鳴り響く音に気を配りながら歩いた。遺跡への道のりは険しく、足元の岩肌が崩れやすい場所では、イシェは慎重に一歩ずつ足を踏み出し、ラーンの不器用な動きに何度も注意を促した。
遺跡の入り口は、かつての巨大な扉が残るだけで、今は崩れかけていた。内部には、風化で崩れた石造りの壁や、朽ち果てた柱が立ち並び、時折、石ころが転がり落ちる音だけが響いていた。
テルヘルは、遺跡の中心にあるとされる部屋へ向かうために、古い地図を広げて示した。ラーンの耳には、地図の紙が擦りあう音だけが大きく聞こえた。イシェは地図をじっと見つめながら、かすかな足音に気を配っていた。
「ここだ」
テルヘルが言った瞬間、床から湿った音が響き渡り、ラーンは足元を確認した。地面には深い穴が開いており、その底には黒曜石のような光沢のあるものが見えた。
「これは…」
イシェの声が震えていた。それは、遺跡に眠る伝説の宝物の可能性を示すものであった。しかし、同時に、この遺跡に潜む危険を予感させるような音でもあった。
ラーンの心臓は高鳴り、興奮と不安が入り混じった音で鼓膜を刺激した。