ラーンの重い足取りが、石畳の道を響かせた。イシェは彼の後ろを少し距離を取りながら歩いていた。いつもより早く遺跡へ行くようテルヘルに急かされたのだ。
「あの、テルヘルさん…」イシェが声をかけると、テルヘルは振り返らずに、「何か?」と curt に言った。
「今日は…ちょっと様子が変なんですけど」
テルヘルは深呼吸し、視線を少し下に落とした。「そうだな。ヴォルダンからの情報が入ったんだ」
イシェは言葉を失った。ヴォルダンといえば、この地域を脅かす大国だ。テルヘルがヴォルダンに復讐を誓っていることは知っていた。
「あの遺跡…危険かもしれない。でも、そこには必要なものがある」テルヘルは言った。「だから、今回は特に慎重に進もう。ラーンも気を引き締めてくれ」
ラーンの足取りはますます重くなった。イシェの視線を感じたのか、ラーンは振り返り、苦笑いした。「大丈夫だ、イシェ。俺が守るからな」
遺跡の入り口に立つと、ラーンの靴が埃まみれの石畳を踏みしめた音が大きかった。イシェは彼の手を軽く握りしめ、小さく頷いた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンは懐中電灯を点けて進んだ。イシェはテルヘルの後を少し遅れて歩いていった。テルヘルは常に周囲を警戒しながら、足音を立てないように慎重に歩いているように見えた。
「ここだ」テルヘルが足を止めると、壁に隠された小さな扉が見えた。イシェは緊張した呼吸を意識した。ラーンの靴音が、石畳の上で不気味に響き渡った。
扉を開けると、そこには輝く宝物が山積みになっていた。ラーンの目が輝き、思わず「やった!」と叫んだ。イシェも驚きを隠せない。しかし、テルヘルは冷静に周囲を警戒した。
「すぐに持ち帰るぞ」テルヘルが言った。「何よりも安全第一だ」
イシェは頷いて宝物を集め始めた。ラーンの靴音だけが、遺跡の静寂を破っていた。だが、その音が徐々に小さくなっていくことに、イシェは気づく。振り返ると、ラーンは立ち尽くしていた。
「どうしたの?」イシェが尋ねると、ラーンはゆっくりと足を動かした。「俺…何か見つけた」彼は足元に落ちている小さな石を指差した。それはまるで、かつて誰かが履いていた靴の残骸だった。