「よし、今日はあの崩れた塔だな!噂には古代の王家の墓があるって聞いたぞ!」
ラーンの声がビレーの朝霧を切り裂くように響き渡った。イシェはいつものようにため息をつきながら、粗末なパンを頬張った。
「またも大穴の話か?あの崩れた塔なんて、ただの石の山だろう」
「そうかもしれないけど、もしかしたら、王家の墓が…」ラーンは目を輝かせた。「黄金の冠や宝石が埋まっていて、俺たちの人生が変わるぞ!」
イシェは苦笑した。ラーンの楽観的な性格は、彼女を時に苛立たせるが、同時に安心感を与えてくれることもある。
「まあ、いいけど、今回は慎重に行こうね」イシェは剣を手に取った。「あの塔は以前にも探索したことがあるんだけど、落とし穴や罠がたくさんあったんだ」
「大丈夫だ!俺が先導する!」ラーンは意気揚々と歩き出した。
テルヘルは二人のやり取りを冷ややかに見ていた。彼女には彼らの無邪気さに少し羨ましさを感じた。彼女はヴォルダンにすべてを奪われた。家族、友人、そして大切な未来さえも。復讐のために生きている。そのために必要なのは、感情の起伏ではなく、冷徹な判断力だ。
遺跡に到着すると、ラーンは早速入り口へと駆け込んだ。イシェはテルヘルに小さく頷き、続くように塔の中へ入った。
崩れかけた石畳の上を進んでいくと、薄暗い通路が現れた。壁には苔が生え、天井からは水滴がポタリと落ちてくる。
「気をつけろ、落とし穴があるかも」イシェは警告を発した。ラーンの足元には確かに崩れかけている場所があった。彼は一歩後退し、剣を構えた。
「やれやれ…」テルヘルはため息をついた。彼らの無計画さに少し疲弊していた。だが、同時に彼らにはある種の力を感じていた。それは、彼女が失ったもの、希望と情熱だ。
彼らは慎重に塔の中を進んでいった。壁一面に描かれた古代の文字、朽ち果てた家具、そして謎めいた装置。遺跡は彼らの想像力を掻き立てる冒険の世界だった。
しかし、その冒険は突然終わりを迎えた。
ラーンが足を踏み入れた瞬間、床が崩れ落ちた。彼は叫び声を上げながら、深い闇へと落ちていった。イシェは驚愕し、テルヘルも一瞬言葉を失った。
「ラーン!」イシェは叫んだ。「大丈夫?」
しかし、返ってくるのは沈黙のみだった。
イシェはすぐに自分の足元を確認した。崩れた床の下には、鋭い石が突き出ているのが見えた。ラーンの靭帯を切断するほどの衝撃だったろう。
「… Damn it」テルヘルは呟いた。彼女にとって、ラーンは単なる駒ではない。復讐を果たすために必要な存在だった。彼の無謀さは、時に彼女の計画を狂わせる。だが、同時に彼には不可欠な力があった。
彼女は深呼吸し、冷静さを装った。
「イシェ、落ち着いて」テルヘルは言った。「今はラーンのことを優先だ。まずは彼を安全な場所へ移動させよう」