「よし、今回はあの洞窟だ。地図によると奥に何かあるらしいぞ」ラーンが目を輝かせ、粗雑な地図をイシェに見せた。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を確かめた。「またしても危険な場所かい? ラーン、この遺跡の入り口付近には霜が降り積もってるって聞いたぞ。足元が滑りやすくて落石も多いらしい」
「そんなもん気にすんな! 大穴が見つかったら全ての問題は解決だ!」ラーンは豪快に笑った。イシェはため息をつき、テルヘルの方を見た。「テルヘルさん、どうされますか?」
テルヘルは鋭い視線で地図を眺めていた。「危険な場所ほど価値あるものがある可能性が高い。準備は万端だ」彼女は氷のように冷たい声で答えた。イシェはテルヘルの言葉に背筋が凍るような感覚を覚えた。彼女の目はまるで霜で覆われた湖のように、深くて底知れぬ冷たさを秘めているように見えた。
ビレーを出発して数日後、彼らは遺跡の入り口に到着した。冷たい風が吹き荒れ、地面には霜が厚く降り積もっていた。ラーンは軽快に歩を進めるが、イシェは足元を確かめながら慎重に進む。テルヘルは二人が歩いている様子をじっと見つめていた。
洞窟の中は暗く湿り気があり、冷気が肌に刺さるように冷たかった。ラーンの足音だけが響き渡り、不気味な静けさを破っている。イシェは背筋をゾッとするような感覚を感じた。「何かいる気がする…」
その時、天井から石が崩れ落ち始めた。ラーンは素早く反応してイシェを庇い、一緒に転げ落ちた。石の雨は止まず、洞窟に響き渡る轟音と共に埃が立ち上った。
「生きてるか?」ラーンの声がかすかに聞こえた。「…生きている」イシェは息を切らしながら答えた。その時、テルヘルが駆け寄ってきた。「大丈夫か? 何かあったのか?」彼女は冷静な様子で尋ねたが、彼女の目にはわずかに光るものが映っていた。それはまるで、霜に覆われた湖の底から湧き上がるような冷たい光だった。