「よし、今回はあの崩れた塔だな。噂によると奥深くには未開の部屋があるらしいぞ」ラーンの豪快な笑いがビレーの狭い酒場で響き渡った。イシェはいつものように眉をひそめた。「また聞いた話だけで決めるのか? ラーン。あの塔は危険だと村長が言っていたぞ」
「大丈夫、大丈夫。イシェには俺たちが頼りになるからな。それに今回はテルヘルさんが資金を出してくれるんだろ?」ラーンの視線は金貨でいっぱいの袋を握るテルヘルの顔に向かった。「いいだろう。だが、今回は慎重に進める。あの塔はヴォルダン軍がかつて拠点にしていた場所だ。何か危険な仕掛けがある可能性もある」テルヘルの言葉にラーンは少しだけ気を引き締めた。
3人は塔へと向かい、崩れた石畳を慎重に進む。イシェは古い地図を広げ、崩れた壁のひび割れや石組みから塔の構造を分析していた。ラーンの粗雑さとは対照的に、彼女は細部まで注意を払いながら進んでいた。「ここだな」イシェが地図を指差した。「この部屋の奥には何かがあるはずだ」。
扉を開けるとそこは小さな祭壇だった。中央には朽ち果てた石像が鎮座し、その前に古い箱が置かれていた。「宝だ!」ラーンの目が輝き始めたが、テルヘルは慎重に箱に近づいていった。「待て」彼女は箱の表面を指で撫でながら言った。「これは単なる宝箱ではない。何か封印されているようだ」。イシェも箱から微かに漂う不思議な香りに気づいた。それは甘く、同時に少し苦みのある、何とも形容しがたい香りだった。
テルヘルは慎重に箱を開けた。中からは小さな瓶に入った液体が出てきた。その液体は鮮やかな青色をしており、かすかな光を放っていた。「これは…霊薬だ」テルヘルは目を輝かせた。「ヴォルダンが秘蔵していたという伝説の霊薬…」ラーンとイシェも息をのんだ。
「これで俺たちの運勢も変わるぞ!」ラーンの興奮を抑えきれない様子だった。しかし、イシェは何か不安を感じていた。この霊薬には何か秘密があるような気がしたのだ。 そして、その秘密が彼らの運命を大きく変えることになることを知る由もない。