ラーンの大剣が石壁を粉砕する音が、埃っぽい遺跡内部にこだました。イシェは眉間に皺を寄せながら、崩れた石塊をよけながら言った。「また無駄な力技だ。あの程度の壁なら、少し工夫すれば…」
「工夫なんていらない!ほら、こんな宝探しの冒険が楽しいだろ?」ラーンはニヤリと笑った。彼の顔には、いつも通りの無邪気な表情が広がっていた。だが、イシェは彼の瞳に僅かな影を感じた。
「最近、お前…何か変だな」イシェは言葉を選びながら言った。「いつも以上に落ち着きがないし、遺跡探しも以前より雑だ」
ラーンの笑みが少し薄れた。「ああ、実はな…」彼は言葉を濁した。
その時、テルヘルが戻ってきた。彼女は顔色を悪くし、手に握りしめた羊皮紙をラーンに差し出した。「見つかった…ヴォルダンの紋章だ。しかも、遺跡の奥にある大部屋から発見されたらしい」
ラーンの表情が硬くなった。彼は拳を握りしめ、歯を食いしばった。「あの紋章か…」
イシェは彼の様子を見て、何か重大な事柄を知っているのだろうと察した。だが、ラーンは口を閉ざし続けた。
テルヘルは冷酷に言った。「ヴォルダンが遺跡を狙っている可能性が高い。我々は先んじなければならない」
「先んじる?何を言ってるんだ?」イシェは混乱した。「なぜヴォルダンが…」
その時、突然、遺跡の奥から轟音が響き渡った。埃が舞い上がり、天井からは石が崩れ落ち始めた。ラーンの瞳に恐怖の色が宿り、彼の口から震える声が出た。
「あの音…あれは…!」
イシェは彼の言葉を遮るように言った。「逃げろ!今すぐだ!」
三人は互いに助け合いながら、崩れゆく遺跡から脱出を試みた。だが、出口付近で巨大な石塊が転がり落ちてきて、ラーンの足を挟んでしまった。
「ラーン!」イシェとテルヘルが声を上げ、駆け寄ろうとしたその時、ラーンの顔に深い絶望の色が浮かんだ。彼は苦しみながら言った。「あの紋章…あれは…」
彼の言葉は途中で途絶えた。石塊の下敷きになったラーンの姿は、まるで巨大な墓標のように見えた。イシェとテルヘルは、震撼しながらその場に立ち尽くした。
遺跡の崩落と共に、彼らの運命も大きく変わってしまったのだ。