ビレーの街はずれにある酒場「凍てつく熊」。ラーンが豪快に笑う声と、イシェの小さくため息をつく音が重なる。テーブルの上には空になった酒樽と、まだ残る煮込んだ肉料理の皿。
「おい、イシェ、もう一杯どうだ？」
ラーンの顔は日焼けで赤らみ、青い瞳は興奮を隠せない。イシェは薄暗い酒場を見渡しながら、小さく首を横に振る。「今日はこれで終わりにしようよ、ラーン。明日は早起きだぞ。」
「ああ、そうか。明日こそは、あの遺跡の奥深くまで行ってみようぜ！大穴が見つかる予感がするんだ！」
ラーンの言葉にイシェは苦笑した。彼にはいつもこの楽観的な態度が理解できない。特に最近は雪融けで道がぬかるみ、遺跡への道も危険になっているのに。
「あの遺跡は危険だって何度も言っただろう。特に今は雪解けで崩落の危険が高い。無理なことをしないでほしい。」
イシェの言葉にラーンは少しだけ顔を曇らせながらも、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。「大丈夫だ、イシェ。僕にはテルヘルがいるじゃないか。彼女は遺跡のことをよく知っているし、危険を避けてくれるはずだ。」
そう言ってラーンは立ち上がり、背後から近づいてくるテルヘルの姿を見つけるや否や、大きな声で叫んだ。「テルヘル！もう一杯！」
テルヘルは黒曜石のような瞳でラーンをじっと見つめた後、静かに頷いた。彼女の表情はいつもどこか影があり、その奥底には深い憎しみと哀しみを感じさせた。イシェは彼女がヴォルダンに何かを奪われたという話を聞いたことがある。
「よし、明日こそ大穴を見つけてやる！」
ラーンの言葉にテルヘルも小さく頷き、酒を飲み干した。三人は雪解けの水が流れ落ちる音を聞きながら、それぞれの思いを抱きつつ、静かに酒場を出た。