「よし、今日はここだな!」ラーンが地図を広げ、指を置いた場所は、雪解け水が流れ出す沢の奥にそびえる崖だった。イシェは眉間に皺を寄せながら、「また危険な場所を選んだわね。あの崖は落石が多いって聞いたことがある」と心配そうに言った。「大丈夫だって!ほら、テルヘルが言ってたでしょう? この遺跡には珍しい鉱物があるって!」ラーンはそう言って胸を張ったが、イシェは彼の背中に手を当てて、「安全確認はしっかりやってもらわないとね」と呟いた。
テルヘルはいつものように冷静に周囲を見渡していた。ヴォルダンとの戦いを生き延びるために必要な情報。それが彼女にとって遺跡探索の唯一の目的だった。雪解け水の流れが、崖の上から流れ落ちる岩肌を白く染め上げていく様子は、まるで過去の戦いの跡のように見えた。彼女は視線を鋭く石碑に注ぎ、そこに刻まれた文字を暗記した。
ラーンとイシェは、テルヘルの指示に従い慎重に遺跡の入り口を探し始めた。雪が溶け出したばかりの地面はぬかるんでいて足元が不安定だった。イシェは細心の注意を払いながら、足取りを軽くして進んだ。「何かあったらすぐに声をかけろよ」とラーンが振り返り、イシェは小さく頷いた。
崖の上から差し込む雪明かりが遺跡の入り口を照らし出す。石造りの門扉には、奇妙な文様が刻まれていた。ラーンの手はそっと剣に手をかけた。「何かいる気がする…」彼は緊張した声で呟いた。イシェも静かに剣を構えた。その時、背後から不気味な音が響き渡った。三人は振り返り、息を呑んだ。そこには、黒曜石のような目をした巨大な影が立っていた。
ラーンの剣は光り、イシェの動きは素早かった。しかし、影は彼らの攻撃を軽々とかわし、鋭い爪を振り下ろした。雪明かりに照らされたその姿は、まるで悪夢から抜け出したかのような grotesqueness だった。テルヘルは冷静に状況を分析し、次の瞬間、鋭い声で叫んだ。「ラーン!イシェ!あの石碑の文様を思い出せ!」
三人は息を切らしながら、影と対峙した。雪明かりが影を長く伸ばし、彼らの戦いを照らしている。そして、イシェは突然、石碑に刻まれた文様の意味を理解した。「あの文様は…呪符だ!」彼女は叫び、ラーンに指示を出した。「あの石碑に向かって攻撃しろ!」
ラーンの剣は石碑めがけて振り下ろされた。雪明かりが一瞬の間、影を包み込んだ。そして、影は悲鳴を上げながら消滅していった。三人は互いに顔を見合わせた。息の乱れと疲れを感じながらも、勝利の安堵感で満たされていた。
「よかった…」イシェは小さく呟き、ラーンも安堵のため息をついた。テルヘルは石碑に刻まれた呪符をもう一度見つめ直した。ヴォルダンとの戦いの鍵がここに隠されているかもしれない。彼女は雪明かりの中に、希望の光を見た気がした。