冷たい風がビレーの街を吹き抜ける。ラーンが酒場に足を踏み入れると、イシェがいつものようにカウンターで待っていた。
「遅っぞ、ラーン。今日はテルヘルが来るって言ってたじゃないか」
イシェは眉間に皺を寄せていた。ラーンが席に着くと、イシェはグラスを指さした。「一杯飲んで落ち着け」
ラーンの視界には、雪明かりに照らされた街の風景が広がっていた。ビレーは山々に囲まれた小さな町で、冬になると雪が降り積もり、街全体が白銀の世界に包まれる。
「今日の依頼は何だ？またヴォルダン領の遺跡か？」ラーンが尋ねると、イシェはため息をついた。「今回は違うらしい。テルヘルから話を聞いたんだが、今回は特殊な遺物探しだと言っていた」
その時、店の扉が開き、テルヘルが入ってきた。彼女の顔にはいつも通りの冷たい表情が浮かんでいた。
「準備はいいか？今日は大仕事だ」テルヘルはそう言って、テーブルに地図を広げた。
地図には、ビレーから北へ続く山道と、その山中に位置する遺跡が記されていた。
「この遺跡はヴォルダン領ではない。しかし、そこにはヴォルダンにとって重要な遺物があるらしい。我々がそれを手に入れることができれば、ヴォルダンの力を弱めることができる」
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。テルヘルの言葉にはいつもよりも強い決意が込められていた。
「では、明日の朝、出発だ」テルヘルはそう言って立ち上がり、店を後にした。
ラーンとイシェは残りの酒を飲み干すと、雪が降る夜の街を歩いた。
ビレーの街灯が雪明かりに照らされ、幻想的な景色になっていた。ラーンの心には、何か大きなものが動き始めるような予感がした。