ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが粗末な酒を喉に流し込んだ。窓の外では、雨粒が石畳に激しく叩きつけられていた。イシェは眉間に皺を寄せながら、ラーンの目の前のテーブルに広げた地図を指さしていた。
「あの遺跡はヴォルダンと接する国境に近いんだぞ。テルヘルが言うように危険すぎるんじゃないか」
ラーンは肩をすくめた。「そんなこと言わずに、イシェ。いい仕事が入ってきたんだから、行くしかないだろ。それに、大穴が見つかるかもしれないじゃないか！」
イシェはため息をつきながら地図をしまった。ラーンの楽観的な態度には、いつも呆れていたが、彼の仲間意識と行動力には心から信頼していた。
「わかったよ、ラーン。でも、今回は本当に気をつけろよ」
次の日、三人は雨の降る中、遺跡へと向かった。道中、イシェは不安な表情で周囲を見回す。かつてこの地では、ヴォルダンの兵士とエンノル連合軍が激戦を繰り広げたという歴史がある。今では静かな森が広がるが、時折聞こえる雨の音がまるで戦いの叫び声のように思えた。
遺跡の入り口には、苔むした石碑が建っていた。テルヘルは石碑に刻まれた文字を解読し始めた。
「この遺跡は、古代の王国の宝物庫だったようだ。しかし、同時に強力な呪いもかけられているという話だ」
ラーンの目は輝いた。「宝物が手に入るなら、呪いなんて怖くないよ！」
テルヘルは眉間に皺を寄せた。「軽率な発言だ。この遺跡は、過去に多くの探検隊を飲み込んだと言われている」
三人は遺跡へと足を踏み入れた。内部は暗く湿っていた。天井から雨水がポタリポタリと滴り落ち、不気味な音が響き渡っていた。ラーンの足取りは軽快だったが、イシェは緊張した表情で周囲を見回していた。テルヘルは常に警戒を怠らず、鋭い眼光で遺跡の奥へと進んでいった。
彼らは遺跡の奥深くまで進み、ついに宝の間へとたどり着いた。そこには、金銀財宝が山積みになっていた。ラーンとイシェは目を丸くして驚愕した。
「大穴だ！本当に大穴が見つかった！」
ラーンは興奮気味に叫んだ。しかし、その瞬間、天井から巨大な石柱が落下し始めた。
「逃げろ！」
テルヘルの絶叫が響き渡った。三人は慌てて宝の間から逃げ出したが、石柱の落下は止まらなかった。イシェは振り返り、ラーンがまだ宝を拾おうとしていることに気づいた。
「ラーン！早く逃げろ！」
イシェの声にラーンは我に返り、立ち上がろうとした。その時、石柱が彼の目の前で粉々に砕け散った。その直後、雨粒がラーンの頬を濡らした。