ビレーの朝焼けは、いつもより薄暗い空気に染まっていた。ラーンが目を覚ますと、イシェが既に準備を済ませていた。いつもなら冗談を交わす二人だが、今日は互いに言葉を交わさずに、沈黙のうちに荷造りに取り掛かった。
「テルヘルから連絡があったのか?」イシェは、ラーンの顔色を伺うように言った。「あの遺跡、危険だって噂があったぞ」
ラーンは深く息をつき、剣を手に取った。「ああ、聞いた。でも、あの報酬じゃな、行かないわけにはいかんだろう」
テルヘルからの依頼は高額だった。しかし、その遺跡はかつてヴォルダン軍と激戦になった場所であり、今も呪いのような噂が絶えない。イシェは不安を感じていたが、ラーンの決意を覆すことはできなかった。
遺跡にたどり着くと、そこは不気味な静けさに包まれていた。崩れかけた石造りの建物からは、何者かの気配を感じ取ったような気がした。テルヘルはいつものように冷静さを保ちながら、遺跡の構造を説明し始めた。
「ここにはヴォルダンの兵器が眠っている可能性がある。探すのは危険だが、成功すれば莫大な報酬が得られる」
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。二人はテルヘルの言葉を理解していた。彼女にとって、この遺跡探索は単なる金儲けではないのだ。ヴォルダンへの復讐心、そしてそのために必要な情報を手に入れるための手段だった。
遺跡の奥深くへと進むにつれて、空気が重くなった。壁には呪文のような文字が刻まれており、不気味な光がちらつき始めた。イシェは不安を募らせながら、ラーンの後ろをついていった。
突然、地面が激しく揺れた。石版が崩れ落ち、ラーンとイシェはバラバラに吹き飛ばされた。ラーンの視界が歪む中、イシェの姿が見えなくなった。
「イシェ!」ラーンの叫び声は、遺跡の奥深くへと消えていった。
彼は立ち上がり、イシェを探すために必死に走り回った。しかし、どこにも彼女の姿はない。
その時、テルヘルが現れた。「ラーン、諦めろ。あの遺跡は危険すぎる。我々は離脱するべきだ」
ラーンの心は混乱した。イシェを置いていくことなどできない。だが、テルヘルの言葉には説得力があった。
「イシェはどこにいるんだ?」ラーンの声は震えていた。
テルヘルは冷酷な目で彼を見つめた。「彼女にはもう戻る道はない。我々は今、自分たちの命を優先するべきだ」
ラーンは立ち尽くした。イシェを助けたいという気持ちと、自分の命を守るべきだという理性の間で、彼は苦悩した。そして、ついに彼は決断した。
「いいだろう。離脱する」