ビレーの酒場で、ラーンが豪快に笑う声が響き渡った。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の背後からそっと彼の手をつかんだ。
「また騒ぎすぎだ。周りが見えなくなるぞ」
ラーンの顔から笑みが消える。「だってさ、テルヘルさんがまた大金持ちの依頼人を紹介してくれたんだって!今回は古代ヴォルダンの王墓だって!」
イシェはため息をついた。「そんな噂話に惑わされるな。王墓なんてただの伝説だろう。それに、ヴォルダンと関わるのは危険だ」
ラーンは気にせず酒を飲み干した。「危険ならこそ面白いじゃないか!それに、テルヘルさんなら本物を知っているはずだ!」
イシェは諦めたように肩を落とした。テルヘルの依頼はいつも高額で魅力的だが、その裏には常に危険が潜んでいる。特にヴォルダン関連の仕事は、彼女の目的と深く関わっているようで、何か不穏な予感がするのだ。
翌日、遺跡へ向かう三人は、いつもより緊張した雰囲気に包まれていた。ラーンの明るい声も、イシェの冷静な指示も、テルヘルの鋭い視線も、まるで雑音のように耳をつんざくような騒がしさの中に消えていく。
遺跡の入り口には、奇妙なシンボルが刻まれた石碑が立っていた。テルヘルは静かに石碑に触れながら、何かを呟いた。その言葉は、イシェには聞こえず、ラーンの耳にも届かなかった。
「さあ、準備はいいか?」
テルヘルの声が響き渡る。彼女の瞳は、遺跡の奥底に潜む闇を見据えているようだった。イシェは胸に冷たい影を感じた。この遺跡から、彼らを待っていたのは、大穴ではなく、深い淵だったかもしれない。