「おい、イシェ！あの石像、なんか変だぞ！」ラーンの声がビレーの遺跡からこだました。イシェは慎重に足場を確認しながら、ラーンが指差す石像を見上げた。確かに、他の石像とは異なる、不自然な角度で腕が曲がっていた。
「どうしたんだ、ラーン？」テルヘルが鋭い目で石像を睨みつけた。「何か仕掛けがあるのか？」
「いや、違うな。なんか... 」ラーンの言葉は途絶えた。彼が石像に触れた瞬間、石像の頭部がゆっくりと回転し始めた。
「ひっ！」イシェが思わず声を上げた。石像の目は赤い光を放ち、口からは不気味な音が漏れる。
「これは... 罠だ！」テルヘルは剣を抜いた。「ラーン、イシェ、後退しろ！」
三人は慌てて石像から距離を取った。石像はゆっくりと動き始め、重い足音を立てながら彼らに襲いかかってきた。ラーンの剣が石像の腕を斬り裂くが、その傷はすぐに再生し始めた。
「なんだこれは...！？」ラーンは眉間に皺を寄せた。「ただの石像じゃないぞ、何か邪悪な力が入ってる！」
テルヘルは冷静に状況を分析した。「この遺跡には何かが封印されていたのかもしれない。そして、それが今解き放たれようとしている。」彼女は石像の動きを注意深く観察し、その弱点を探そうと努めた。
その時、イシェが小さく呟いた。「あの... ラーン、あの石像... 」
ラーンの視線は石像の足元に向けられた。そこに刻まれた紋章を見て、彼は息をのんだ。それはヴォルダン帝国の国章だった。
「ヴォルダン...！」ラーンの心には怒りと恐怖が渦巻いた。この遺跡に封印されていたものとは一体何なのか？そして、ヴォルダンは何を企んでいるのか？
テルヘルは冷徹な表情で言った。「ここはすぐに離れなければ。」彼女の瞳には、深い悲しみと憎しみが宿っていた。それは、かつてヴォルダンから奪われた自由への渇望、そして復讐への執念だった。
三人は石像の猛攻をかわしながら、遺跡から脱出を試みた。しかし、出口は封鎖され、彼らは逃げ場を失った。
その時、イシェが何かを思い出したように言った。「あの... ラーン、あの石像、よく見たら... 」
ラーンの視線が再び石像に向けられた。その石像の胸部に刻まれた紋章に気がついた時、彼の顔色が変わった。それは、ヴォルダン帝国の国章ではなく、遥か昔に滅亡した古代文明のシンボルだった。
「これは... ヴォルダンが利用しているだけなのかもしれない。」ラーンの声は震えていた。「この遺跡には、もっと深い秘密が隠されているのかもしれない...」
三人は互いに顔を見合わせた。彼らが直面する脅威は想像を絶するほど大きく、そして複雑だった。彼らは、単なる遺跡探索者ではなく、歴史の歯車に巻き込まれた者たちだったのだ。