「準備はいいか？」
ラーンが重い剣を肩に担ぎ、イシェの顔色を伺った。イシェはいつものように細長い顔に眉間に皺を寄せ、地図を指でなぞっていた。
「あの遺跡、本当に大丈夫なのか？ あの辺りはヴォルダンの奴らもよく出没するって聞いたぞ」
イシェの声はいつもより少し高かった。ラーンは軽く笑って言いかけたが、テルヘルに睨まれた。
「心配するな、イシェ。今回は俺たちが先導だ。あの遺跡には『紅蓮の鍵』があるって噂だろ？ あの鍵があれば、ヴォルダンもビレーにもひれ伏す日が来る」
テルヘルの言葉は冷酷で鋭かった。「紅蓮の鍵」とは、伝説の遺物で、その力を手に入れる者にはあらゆるものを与えるという。だが、それはただの噂に過ぎないかもしれない。イシェはそう思ったが、ラーンの熱意とテルヘルの執念に押され、結局うなずくしかなかった。
遺跡の入り口は、まるで獣の口のように広がっていた。内部は薄暗い空気に包まれ、何とも言えない不気味な静けさがあった。ラーンは剣を抜き、イシェは小さなランタンを灯した。テルヘルは先頭を進み、時折振り返りながら進路を確認する。
「ここだ」
テルヘルが壁に手を当てると、壁の一部が沈み込み、奥へと続く階段が現れた。階段を降りると、広大な地下空間が広がっていた。中央には巨大な石の祭壇があり、その上に赤い宝石が輝いていた。
「紅蓮の鍵だ！」
ラーンが興奮したように叫んだ。イシェは宝石に近づき、慎重に手を伸ばそうとしたその時、背後から何かが襲いかかってきた。ラーンの剣が鋭く光り、影を斬り裂いた。
「ヴォルダンの奴らか！」
テルヘルが叫びながら、二本の短刀を抜き出した。イシェは宝石を諦め、危機を察知した瞬間、素早く後退した。激しい戦いが始まった。
ラーンの剣技は荒々しく、テルヘルの動きは鋭く冷酷だった。イシェは状況を見極めながら、隙を突いて敵の足元を切りつけたり、影から奇襲を加えることで彼らをサポートしていた。
激しい攻防が続く中、ついに最後の敵を倒した。ラーンとテルヘルは息を切らし、イシェは静かに宝石を手に取った。だが、その宝石には奇妙な文字が刻まれていて、イシェは一瞬目を疑った。
「これは…？」
イシェの言葉に、ラーンとテルヘルも宝石を見つめた。その時、突然、地面が激しく揺れ始めた。壁から崩落が始まり、祭壇はゆっくりと沈み始めた。
「逃げろ！」
テルヘルの声が響き渡った。三人は慌てて階段を駆け上がろうとしたが、出口は崩れ落ちていた。彼らは絶望の淵に立たされていた。