ビレーの朝焼けは、いつもよりも少しだけ赤く染まっていた。ラーンは、その色を「運気の良い色だ」と解釈し、イシェを不機嫌な顔で起こした。
「ほら起きろよ、イシェ。今日はテルヘルが珍しい遺物に目をつけた遺跡だって言うんだぞ。大穴が見つかるかもしれないぜ!」
イシェは眠りぼそりとラーンの言葉を聞き流す。彼女の心は、いつも通りの不安感と、どこか寂しい気持ちで満たされていた。ビレーの街並みを彩る家々は、まるで乾いた葉っぱのように脆く見える。いつか崩れ落ちてしまうのではないかという予感がする。
テルヘルが約束した報酬は確かに魅力的だった。しかし、イシェはラーンの言葉に踊らされるよりも、この街から抜け出す方法を見つけたいと願っていた。
遺跡へと続く道は、まるで迷宮の入り口のようだった。石畳の上には、過去の探検隊の足跡が残っているように見えたが、それはあくまでイリュージョンだ。真実は、常に影の中に隠されている。
テルヘルは、いつも通り冷静に遺跡の地図を眺めていた。彼女の瞳は、氷のように冷たかった。復讐のために必要なものは何でも手に入れる、という決意がそこには宿っていた。
ラーンの軽快な足取りと対照的に、イシェは慎重に一歩ずつ進んでいった。彼女にとって、遺跡は未知なる世界であり、同時に自分自身の心の奥底に潜む闇を映し出す鏡のようだった。
地下深くへと続く階段を降りるにつれて、空気は冷たくなり、湿気が増した。ラーンの刀が、まるで獣の咆哮のように空気を切り裂いた。イシェは背筋をぞっとさせるような予感がする。何かが彼らを待っているのだ。
「この遺跡には、かつて強力な魔物が封印されていたという話だ」
テルヘルの声が、石室にこだました。彼女の言葉は、まるで呪いの言葉を囁くように響いた。ラーンの顔色が一瞬だけ曇る。イシェは、テルヘルの真意を理解した気がした。彼女は、この遺跡から何かを手に入れようとしているのだ。そしてそれは、単なる遺物ではない。
「さあ、準備はいいか?」
テルヘルが言ったとき、イシェは自分の心の中で静かに誓った。いつか、この暗い迷宮から抜け出す日が来るだろう。そして、そのときには、真実の光を手に入れることができるだろう。