ラーンが遺跡の入り口で鼻歌まじりに石を蹴飛ばしていると、イシェから「また無駄なエネルギーを使ってる」と呆れ顔で言われた。ラーンの肩越しに、遺跡の崩れた壁をじっと見つめていたテルヘルは、「時間だ」とだけ告げた。
いつも通りの光景だった。ラーンは冒険心にあふれ、イシェは慎重に計画を練り、テルヘルは冷酷な目的意識で彼らを動かしていた。だが、今回は何かが違った。イシェの顔にはいつもの冷静さがなく、ラーンの歌声もどこか力なく、テルヘルの目はいつもより鋭く光っていた。
遺跡内部は、薄暗く湿った空気と埃の匂いが充満していた。足元には崩れかけた石畳が広がり、天井からは不気味な影が伸びていた。ラーンはいつものように軽快に歩を進めるが、イシェは足取りを遅らせ、テルヘルの後をついていく。
「何かあったのか？」ラーンの問いかけに、イシェは小さく頷いた。「ここには、以前から噂があったんだ。ヴォルダンが何者かを探しているという話も…」
イシェの言葉が終わりかけた時、突然、壁の一部分から鋭い光が放たれた。その光は一瞬で消え、代わりに不気味な音が響き渡った。ラーンの顔色が変わり、テルヘルは剣を抜き、イシェは必死に後ずさった。
「何だ？」ラーンの声が震える。「罠か？」
テルヘルは沈黙を保ち、周囲を見回した。彼女の視線は、崩れかけた壁の奥深くに注がれていた。そこには、今まで見過ごされていた小さな扉があった。扉からは、かすかに赤い光が漏れているようだった。
「これは…私の探すものかもしれない」テルヘルは静かに言った。その言葉には、どこか狂気じみた興奮が込められていた。ラーンとイシェは言葉を失い、彼女の後を追うようにして扉へと近づいた。
扉を開けた瞬間、彼らの前に広がったのは、予想をはるかに超える光景だった。それは、広大な空間で、天井からは輝く水晶が吊り下がっていた。中央には、巨大な石碑がそびえ立っており、その表面には複雑な模様が刻まれていた。
「これは…！」イシェの声が震えた。「ヴォルダンが探していたもの…」
テルヘルはゆっくりと石碑に近づき、手を伸ばした。その瞬間、石碑から強烈な光が放たれ、三人は目を眩んだ。そして、意識を失った。
目が覚めた時、彼らは石碑の周りで横たわっていた。周囲は静かで、光も消えていた。テルヘルは立ち上がり、石碑をじっと見つめた。「ついに…」と彼女は呟いた。「私はついに…」
しかし、彼女の言葉は途中で途絶えた。なぜなら、石碑には奇妙な文字が刻まれており、その中には、彼女の名前も含まれていたからだ。そして、その下には、衝撃的な一文が書かれていた。
「ヴォルダンは、お前を裏切った者だ」