ビレーの朝はいつもひっそりとしていた。ラーンの寝息が、薄暗い小屋の中で響き渡る。イシェはすでに起き上がり、小さな火を起こしていた。焚き火の炎が揺らめく中、イシェはテルヘルの言葉を思い出していた。「この遺跡には、ヴォルダンに奪われた私の過去の一部が眠っている」。その言葉の裏にある執念深さは、イシェを不気味にさせるものだった。
「今日はあの隆々とした石柱群だな」ラーンが小屋の入口で声をあげた。イシェは小さくうなずき、準備を始めた。テルヘルは、いつもより早く到着していた。「今日は時間との勝負だ。ヴォルダンの犬どももこの遺跡を狙っている。我々が先に遺物を手に入れなければ…」テルヘルの目は鋭く輝いていた。
遺跡への道は険しかった。崩れかけた石畳を歩き、鋭い岩が突き出た道を進むにつれて、ラーンは熱くなるような興奮を感じていた。「きっと今回は大穴だ!」と彼は叫び、イシェの眉間にしわを寄せた。
石柱群に近づくにつれて、空気が重くなった。巨大な石柱は、まるで巨人の骨のように隆々とした姿で、遺跡の周囲を囲んでいた。その影は、まるで生き物のようにうごめいているようだった。
「ここだ」テルヘルが石柱の前に立ち止まり、鋭い目を向けた。「この柱には、ヴォルダンに奪われた私の過去が残されているはずだ」。彼女は手を石柱に当て、目を閉じた。その時、地響きが起こり始めた。石柱群全体が震え、まるで生きているかのように隆々とした動きを見せた。ラーンは剣を握りしめ、イシェは緊張した表情で周囲を見渡した。
「逃げろ!」テルヘルの叫び声が響き渡った瞬間、石柱の一つが崩れ落ちた。ラーンの背後から轟音が聞こえ、埃と石の雨とともに、巨大な影が彼らを襲おうとしていた。