ビレーの薄暗い路地裏で、ラーンがイシェに酒を勧めていた。イシェは眉間にしわを寄せていた。「また遺跡探すのか?あの大穴の話はいつまで続くんだ?」
ラーンの笑顔は、夕暮れの影に消えていくように曖昧だった。「お前も分かってるだろ、イシェ。いつか必ず掘り当てるさ。あの日、あの場所で見つけたあの光…あれが嘘だとは思えん」
イシェは、あの日の光を思い出した。遺跡の奥深くで、一瞬だけ見せた不気味な輝き。ラーンの瞳に映る狂熱的な光と対照的に、イシェにはただ不吉な予感だけが残った。
次の日、テルヘルが指定した場所に3人は集まった。そこは、ビレーから見て東の端にある森の入り口だった。深い森は常に影に覆われ、その奥底には何かが潜んでいるかのような、不気味な静けさがあった。
テルヘルは地図を指さして言った。「目標は、この森の奥深くにあるという廃墟だ。そこには古代の遺物があると伝えられている」
ラーンは剣を手に取り、「よし、行こうぜ!」と叫んだ。イシェは彼の背中に影が長く伸びていることに気づき、胸が締め付けられるような予感を覚えた。
森の中に入ると、日差しはほとんど届かず、視界は暗闇に覆われていった。足元には朽ちた枝や葉が積もり、腐敗した匂いが漂っていた。静寂は重く、どこからともなく動物の鳴き声が聞こえるような気がした。
ラーンは先頭を歩き、イシェとテルヘルは後をついていった。テルヘルの表情は冷静だったが、鋭い瞳は森の奥深くを見つめていた。何かを知っているかのような視線に、イシェは不快感を覚えた。
日が暮れ始めると、森の影はさらに濃くなり、まるで生き物のように動いているようだった。ラーンが足踏みし、不安そうに周囲を警戒した。「何かいる…感じる…」
イシェも不気味な感覚を感じた。森の中に何か潜んでいる存在があるような気がして、背筋がゾッとした。テルヘルは冷静に言った。「気にしない。目標まではあと少しだ」
しかし、その瞬間、地面が激しく揺れた。巨大な影が木々の間を縫うように現れ、ラーンを襲いかかった。ラーンの剣が光り、影と激突した。激しい音が森に響き渡り、イシェは恐怖で声を上げそうになった。
影は巨大な獣の姿をしていて、鋭い牙と爪を持っていた。ラーンの剣は影に傷をつけることもなく、逆に獣の攻撃はラーンを吹き飛ばした。イシェは動揺しながらも、テルヘルの方を見た。彼女は冷静に状況を把握し、何かを企んでいるようだった。
イシェは、この森の奥深くには、単なる遺跡や遺物だけでなく、もっと恐ろしい秘密が眠っていることを悟った。そして、自分たちがその秘密に巻き込まれてしまったことに恐怖を感じた。