「おい、イシェ、あいつ本当に大穴が見つかるって信じてんのか？」ラーンが寝転がりながら、イシェの方へぼそっと言った。
イシェは小さな声で返した。「そんな話、聞いたことないわよ。でも、あのテルヘルには何か理由があるはずよ。あんなに執念深い人じゃないもの。」
ビレーの酒場では、テルヘルの噂が絶えなかった。ヴォルダンへの復讐を誓う謎の女、遺跡の探査で莫大な報酬を払う、そして、その冷酷なまでの目的意識。ラーンとイシェはそんな彼女に雇われて遺跡探索を行っていたが、テルヘルの真意を知る者は誰一人いなかった。
「あいつの目的は、俺たちには関係ないんじゃないか？」ラーンの言葉に、イシェも小さく頷いた。二人はあくまで遺跡探査の依頼者であり、テルヘルの復讐劇に巻き込まれる必要はない。そう自分に言い聞かせた。
だが、ビレーの人々の間では、テルヘルについて陰口が絶えなかった。「ヴォルダンへの復讐だなんて、ただの作り話じゃないか？」「あの冷酷な女は、一体何を企んでいるんだ？」そんな噂を耳にするたびに、イシェの心には不安が忍び寄ってきた。
ある日、ラーンとイシェはテルヘルに連れられて、かつてないほど深い遺跡へと潜った。そこは、他の遺跡とは違う、重厚で不気味な空気に包まれていた。
「ここなら、きっと何か見つかるはずだ。」テルヘルの目は、まるで炎のように燃えていた。「ヴォルダンが奪ったものを、全て取り戻すために。」
イシェはラーンの顔色を伺いながら、小さな声で言った。「あの、テルヘルさん…もしかして…」
その時、遺跡の奥から、不気味な音が響き渡った。それは、まるで獣の咆哮のようであり、人間の悲鳴のようでもあった。ラーンとイシェは互いの顔を見合わせ、恐怖に震えた。
「これは…」ラーンの言葉は途切れ、イシェは思わずテルヘルの腕を掴んだ。「逃げよう！早く！」
しかし、テルヘルは動かなかった。その瞳には、狂気に満ちた光が宿っていた。
「逃げる必要はない。」テルヘルは静かに言った。「私の復讐が始まるのだ…」