ラーンが遺跡の入り口に足を踏み入れた時、冷たい空気が彼を包み込んだ。いつも以上に湿り気があり、石畳の上にも薄っすらと苔が生えていた。イシェは眉間に皺を寄せながら、周囲を見回した。「何か変だな…」
「変?」ラーンは首を傾げた。「いつもの遺跡と変わらないんじゃないのか?」
イシェは小さくため息をつき、「いつもより静かすぎるんだよ。鳥のさえずりも聞こえないし、獣の気配もない」
テルヘルは静かに剣を構えた。「何かいるかもしれない。警戒が必要だ」
彼らは慎重に遺跡内部へと進んでいった。石造りの通路は崩れかけており、ところどころに足場が設けられていた。ラーンの視線は壁一面に描かれた複雑な模様に釘付けになった。まるで警告か呪文のような記号が刻まれていた。「イシェ、これって一体何?」
イシェは近づいて模様を確かめた。「見たことのない文字だ…何か古代の言語かもしれない」
その時、床から不気味な音が響き渡った。ラーンの足元が崩れ、彼はバランスを崩して転げ落ちた。「うわっ!」
「ラーン!」イシェが駆け寄ると、ラーンの腕をつかんで引き上げた。「大丈夫?」
ラーンは立ち上がると、顔面蒼白になった。「あの…あの時、何か見えたぞ…」
イシェは彼の指さす方向を見た。崩れた床の下から、黒曜石のような光沢を持つ巨大な球体がゆっくりと姿を現していた。球体からは不規則に光が放たれ、周囲の壁に奇妙な影を落とす。「これは…」
テルヘルは眉間に皺を寄せ、「何か強力な魔力が…防備として施されている可能性がある」と呟いた。