ビレーの酒場にはいつもより騒がしい。執政官選挙の話題ばかりが飛び交い、ラーンの耳にも届いていた。イシェは酒を一口飲み干すと、「今日は遺跡調査だと言っただろう」と眉をひそめた。
「ああ、そうだな」ラーンはいつものように大げさなジェスチャーで言った。「でも、あの遺跡の話を聞いたか？古代ヴォルダンの王墓らしいんだって！」
イシェはため息をつきながら、「そんな噂話に惑わされてもしょうがない。何よりもテルヘルとの約束だ。」
「そうだよな」ラーンは肩をすくめた。「あの女、約束したことは守るからな。それに、ヴォルダン王墓なんて、大穴が見つかる確率だって高いだろう？」
イシェは彼の楽観的な態度に呆れながらも、彼を止めようとしない。テルヘルとの契約は確かに重要だ。彼女が提供する情報と資金があれば、彼らはより深い遺跡へ挑戦できる。だが、テルヘルの目的は何か？彼女の冷酷さと知性、そしてヴォルダンへの執念深い憎しみから、イシェは不安な予感を感じていた。
日が暮れ始めると、ラーンとイシェはテルヘルに合流した。彼女はいつも通り影のある場所に佇んでおり、鋭い視線で二人を見つめていた。
「準備はいいか？」テルヘルの声は冷たかった。
「もちろんだ」ラーンは力強く答えた。「大穴を見つけられるのは俺たちだけだ！」
イシェはラーンの言葉を聞いても、胸がざわつくような予感が拭えなかった。彼らは三人がかりで遺跡へと潜っていく。遺跡の入り口には古代の呪文が刻まれており、不気味な光を放っていた。その奥深くには、闇路が広がっているように見えた。
テルヘルは懐から巻物を取り出し、地図を広げた。「ここが目標だ」と彼女は指さした。「ヴォルダン王墓への入口だ。だが、そこは魔物が徘徊する危険地帯だ。慎重に進まなければならない。」