ビレーの朝はいつも早かった。ラーンが目を覚ますと、イシェがもう準備を終えていた。「今日はテルヘルさんの依頼だって言ってたな」ラーンのぼやけた声に、イシェはため息をついた。「いつもより早く出かけるって言ってなかった？ 今日は特に重要なんだってよ」。
イシェの言葉通り、テルヘルはいつもより厳しい表情で待っていた。テーブルの上には地図と、見慣れない形をした金属の部品が並んでいた。「今日は古い遺跡に入る。この部品は古代の装置の一部らしい。これを手に入れる必要がある」テルヘルは地図を指さした。「ここはかつてヴォルダンの支配下にあり、激しい戦いが繰り広げられた場所だ。危険な罠や残存する敵もいるだろう」。
ラーンはいつものように軽口を叩いた。「怖いもの知らずの俺たちに任せておけよ」。だが、イシェはテルヘルの顔色から何かを感じ取った。「何か隠してることがあるんじゃないのか？」。テルヘルは少しだけ視線をそらした。「今回は特に慎重に進めてほしい。ヴォルダンからの情報漏洩が疑われているんだ」。
遺跡へ向かう道中、ラーンはイシェに耳打ちした。「なんか怪しいな。テルヘル、何か企んでるんじゃないのか？ 」イシェも同様に不安を感じていた。「そうだね。でも、今のところ選択肢はないわ。それに、あの部品を手に入れることができれば、ヴォルダンへの復讐にも繋がるかもしれない」。
遺跡の入り口は崩れ落ちた石柱が積み重なった暗い空間だった。ラーンは剣を構え、イシェは細心の注意を払って周囲を確認した。「何かいるぞ！」ラーンの警告と共に、影が動き出した。それは巨大な機械仕掛けの獣だった。テルヘルが用意した部品を装着すると、獣は動きを止めた。「古代の装置の制御プログラム…まさかこんな場所に…」テルヘルは驚きと興奮の表情を見せた。
しかし、その瞬間、天井から石が崩れ落ち、ラーンを襲った。イシェが必死にラーンを引き上げた時、彼はすでに意識を失っていた。イシェはラーンの顔を見て、涙を抑えきれないでいた。「大丈夫、絶対大丈夫…」と呟きながら、テルヘルに叫んだ「早くこの遺跡から脱出しないと！」。
テルヘルは冷静さを装いながらも、内心では激しい後悔を感じていた。ラーンを危険な目に遭わせたのは、自分の復讐心だったからだ。彼女はイシェと共にラーンの意識を取り戻すまで必死に戦い続けた。だが、彼らの前に立ちふさがる敵は、ヴォルダンとの戦いに巻き込まれた者たちだけではない。遺跡の奥深くには、古代文明が秘めた恐ろしい真実が眠っていたのだ。