ラーンが、錆びた剣を片手に遺跡の入り口に立ち尽くしていた。イシェがいつも通り彼の背後から小さくため息をついた。「また、大穴が見つかるって思ったのかい？」
ラーンの顔には、いつもの自信に満ちた笑みが浮かんでいた。「今回は違う、イシェ。感じるんだ、何かがおかしいって。ここには何かある」
イシェは眉をひそめた。「いつもそう言ってるわよ。でも、今まで大したものは見つからなかったじゃないの」
「今回は違うって！ほら、テルヘルも言ってたじゃないか、この遺跡はヴォルダンに関係があるって！」
テルヘルは、彼らに依頼を出した謎の女性だ。ヴォルダンへの復讐を誓う彼女の目的は不明だったが、遺跡探索の経験豊富なラーンとイシェに目をつけ、高額の日当で雇い入れたのだ。
「ヴォルダン…」イシェは言葉を濁した。その名前は、この地域の人々にとって暗い影のように存在していた。
ラーンが先頭を切り、遺跡の中へと進んでいった。薄暗い通路は湿り気と埃の臭いが漂うだけで、何もない。イシェは後ろからラーンの足音を聞きながら、不安な気持ちに襲われた。
「ラーン、本当にここに何かあるのかしら？」
「あるって！ほら、この石畳、見てみろ！」
ラーンが指さす方向には、石畳にひびが入り、奇妙な模様が浮かび上がっていた。「これは…何か呪文みたいだ」イシェは目を丸くした。
突然、通路の奥から冷たい風が吹き抜けた。壁に飾られた古い絵画が揺れ動き、埃が舞い上がった。ラーンとイシェは息を呑んで互いに顔を見合わせた。
その時、地面から緑色の光が湧き上がり始めた。光はゆっくりと広がり、やがて花のような形を作り上げた。それは、今まで見たこともない美しい花だった。その花びらには、まるで生きているかのように脈打つ光が宿っていた。
「なんて…！」イシェは言葉を失った。ラーンも目を輝かせながら、その花に近づこうとした。
「待て！ラーン、触っちゃダメよ！」イシェがラーンの腕を掴んだ。「あの花…何か変だと思う」
ラーンの顔には、一瞬の躊躇が見えたが、すぐに好奇心に駆られて手前に伸びた。しかし、その瞬間、花は一気に開き、ラーンを包み込んだ。
「ラーーン！」イシェが叫びながら、ラーンに駆け寄ろうとした。しかし、花はラーンと共に光り輝き、やがて消え去ってしまった。残ったのは、石畳の上に咲いた一輪の白い花だけだった。
イシェは呆然と立ち尽くしていた。あの花は一体何だったのか？そして、ラーンはどこへ行ってしまったのか？イシェの心には、深い不安が蔓延した。しかし、同時に、あの花の輝きの中に、何か新しい希望を感じたものがあった。それはまるで、ラーンの「大穴」を掘り当てる夢のように、遠い未来に咲く花のようだった。