「よし、入ろう!」
ラーンの豪快な声が響き渡り、イシェはため息をついた。目の前の遺跡は、崩れかけた石造りの門が朽ち果てただけの寂れたものだった。だが、ラーンにとっては「大穴」への第一歩であり、イシェにとってはいつまでも続く悪夢の始まりだった。
「待てよ、ラーン。あの紋章…見たことがあるぞ」
イシェは崩れかけた壁に刻まれた奇妙なシンボルを指差した。ラーンの無邪気な顔色が一瞬曇り、テルヘルが鋭い目でシンボルを睨みつけた。
「ヴォルダン軍の紋章だ…」
テルヘルの言葉に、ラーンは小さくうなずいた。「あのシンボルを見たことがある…俺たちの村に攻めてきた時…」
イシェはラーンの肩に触れ、静かに言った。「ここは危険だ。引き返そう」
だが、ラーンの目はすでに遺跡の奥深くに固定されていた。かつてヴォルダン軍に奪われた故郷を思い出すように、彼の瞳には復讐の炎が燃えていた。
「開示されるべきものは開示される…」
テルヘルはつぶやいた。彼女の表情は冷静だったが、その瞳の奥底には激しい感情が渦巻いていた。彼女はヴォルダンへの復讐を誓い、この遺跡に眠る秘密を手に入れるため、どんな犠牲も厭わなかった。
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らは知っていた。この遺跡は単なる遺物庫ではなく、彼らの運命を大きく変える場所になることを。そして、その先に待ち受ける真実が、彼らを救うのか、それとも破滅へと導くのか、誰も知る由もなかった。