「よし、行こう！」ラーンの豪快な声がビレーの朝霧を切り裂いた。イシェはいつものようにため息をつきながら、彼について行く。テルヘルは両腕を組んで冷静に二人の様子を見ている。今日も遺跡探索だ。
今回は、ビレーから北へ数日の道のりを要する、"凍てついた湖"と呼ばれる遺跡だった。かつて巨大な湖だった場所が、今は氷に覆われており、その下に何らかの遺物が眠っていると伝えられていた。
「あの遺跡は危険だって聞いたぞ。凍った湖面は不安定で、落とし穴もあるって」イシェが心配そうに言った。ラーンは軽く笑って、「大丈夫だ、イシェ。俺たちにはテルヘルがいるじゃないか。彼女に案内してもらえばなんとかなるさ」と答えた。
テルヘルは彼らに鋭い視線を向けた。「私は案内人ではありません。あくまで目的達成のための協力者です。危険を冒すのはあなたたちです。成功すれば報酬が与えられるだけです」
「わかってるよ、わかってるよ」ラーンは笑い飛ばした。イシェはテルヘルの言葉の意味をよく理解していた。彼女は復讐心で燃えている。そして、その炎は彼女を冷酷な判断へと導く。
遺跡の入り口に到着すると、凍てついた湖面から冷たい風が吹き付けてきた。氷の上には足跡がいくつか残っており、先人たちがこの地を訪れたことを物語っていた。
「ここからは慎重に」イシェがささやいた。ラーンは頷き、剣を構えた。テルヘルは前方へ歩き出した。彼女の足取りは確実で、迷いはない。
遺跡内部は暗く湿り気があり、冷たい空気が肌を刺すように冷たかった。壁には古びた文字が刻まれており、かつてこの地に栄華があったことを物語っていた。
「ここには何かがあるはずだ」テルヘルは低い声で言った。彼女は壁の文字を指さした。「古代語で書かれている。鍛冶場だったらしい。そして、そこに何か特別な金属を鍛造していたという記述がある」
ラーンの目は輝いた。「大穴だ！ついに大穴を見つけたぞ！」彼は興奮気味に叫んだ。イシェは少し不安を感じたが、ラーンの熱意に押されてしまった。
彼らは遺跡の奥深くへと進んでいった。道中、落とし穴や罠が仕掛けられていたが、テルヘルの冷静な判断とラーンの力強い剣によって難を逃れることができた。
ついに、遺跡の最深部にたどり着いた。そこは広大な鍛造場だった。巨大な炉が設置され、壁には様々な道具が並べられていた。そして、その中央には、奇妙な金属製の塊があった。
「これが…鍛造された金属か…」イシェは息を呑んだ。
テルヘルはゆっくりと近づき、金属の塊に触れた。「これは…」彼女は目を輝かせた。「ヴォルダンに奪われた技術…。ここにあったのか…」
ラーンは興奮気味に言った。「よし、これで大穴だ！俺たちは金持ちになれる！」
しかし、イシェは何かがおかしいことに気がついた。テルヘルの表情は狂気を帯びていた。そして、彼女の視線は金属の塊ではなく、ラーンの顔に向けられていた。
「お前たちの力は必要ない」テルヘルは冷たい声で言った。「この技術を手に入れるために、お前たちを利用しただけだ」
ラーンの顔色が変わった。イシェも恐怖を感じた。彼らは、テルヘルの本当の目的を知った時、既に手遅れだった。