ラーンの大雑把な指示に従い、イシェが慎重に足場を確かめながら遺跡の奥へと進んだ。埃っぽい薄暗い通路は、時折崩れそうな天井から滴り落ちる水滴の音だけが響いていた。テルヘルは後ろから二人を見下ろすように歩いていた。
「ここは以前にも来たことがあるはずだ」イシェが呟いた。「あの時より更に奥へ進んでいない限り、何も変化はないだろう」。ラーンはイシェの言葉に耳を貸さずに、興奮気味に壁に描かれた奇妙な記号を指差した。「ほら、見てくれ！これは明らかに魔法陣の痕跡だ！大穴への手がかりに違いない！」
イシェはため息をついた。ラーンの「大穴」への執着は、いつしかただの夢物語ではなく、彼の人生観そのものになってしまっているように思えた。
テルヘルはラーンをじっと見つめた。「魔法陣？面白いね。では、試してみようじゃないか」。そう言って彼女は小さな水晶のペンダントを取り出した。ペンダントから淡い光が放たれ、壁に描かれた記号に照射されると、壁の一部が輝き始め、まるで生きているかのようだ。
「これは…！」ラーンの目は輝き、興奮を barely contain していた。「ついに大穴への入り口が見つかったのか？」
イシェは不安を感じた。テルヘルの行動には何か不自然な点があった。彼女の水晶のペンダントは、単なる光源ではなく、何か別の力を持っていると感じたのだ。そして、その力は遺跡の壁に描かれた記号と反応している。
「待て！」イシェが叫んだが、ラーンは既に水晶の光に触れようとしていた。その時、床が崩れ始め、三人は深い闇の中に落ちていった。
意識を取り戻した時、ラーンは目の前に広がる光景に言葉を失った。そこは一面に広がる金銀財宝で埋め尽くされた部屋だった。まさに「大穴」だ。しかし、その輝きは偽りのように感じられた。
イシェは冷や汗を流していた。「これは…錯覚じゃないか？」彼女は言った。「この光景は…」
テルヘルは微笑んだ。「そう、錯覚よ。だが、この錯覚が現実となる可能性もある」。彼女はラーンの目をじっと見つめた。「さあ、大穴を手に入れようじゃないか」。
ラーンの瞳には、狂気のような光が宿っていた。イシェは恐怖を感じた。ラーンの「大穴」への執着は、もはや夢物語ではなく、何か恐ろしいものへと変貌していたのだ。そして、テルヘルはその変化を操っているように見えた。